君と食べる宝石箱「わー、ありがとうございますー!! 見て、エグザベくん、すっごく綺麗!」
ごゆっくりどうぞ、と目の前にパフェがサーブされると、コモリ少尉は一瞬にして目を輝かせた。飲みかけのカモミールティーをソーサーに置いて、すぐにスマホを手に取った。
大きなパフェグラスには、色とりどりのフルーツとたっぷりの生クリームが見事に盛られている。いちご、オレンジ、パイナップル、マンゴーの鮮やかな彩りに、メロンとマスカットの透き通ったみずみずしさが目を引く。ブルーベリーと桃がさりげないアクセントになっている。あまりの美しさに口にするのがもったいなく感じてしまう。
グラスの中にはアイスとフルーツソースとクラッシュゼリーが、虹のような層をなしている。こっちも心が弾む見た目だ。
フルーツの配置やカットの丁寧さから、作り手のこだわりと熱意を感じる。このコロニーで屈指の名店と言われているのもうなずける。
来店前、少尉が見せてくれたSNSでは食べられる芸術作品と紹介されていた。僕はファンタジー作品の宝石箱みたいだと思った。でも、口に出せば「エグザベくんは感性がかわいい」とからかわれそうなので、心の内に留めておく。
同僚に「かわいい」と言われるのはむず痒いし、どうもしっくりこない。
「はー……ほんとに綺麗。来てよかったあ」
スマホのシャッター音がカシャ、カシャと響く。
……そんなに撮って、あとでお気に入りの一枚を選ぶのは大変じゃないのかな?
でも、今日誘ってくれたのは彼女だから、気が済むまで撮ってもらおう。
撮影が終わるまで、おとなしくコーヒーを飲みながらあらためてメニュー表を眺めてみることにする。
このパーラーは、パフェだけでなくパンケーキやフルーツサンドなどもある、高価格帯のお店だ。僕たちが頼んだパフェの説明を見ると「カップルに人気です!」との文言。少しドキッとしたけれど、同じページの値段を見てもう一度ドキッとした。日替わりでその日おすすめのフルーツを惜しみなく使うパフェだ。価格はもちろん、それ相応。僕が一人で外食するなら絶対に出さない金額だった。
今回はコモリ少尉との割り勘だけど、それでも贅沢だと感じずにはいられない。年に数回の自分への最上級のご褒美に使うお店、といったところかもしれない。
メニュー表を眺め終えて、ふと視線を上げると、まだ写真を撮り続けるコモリ少尉がいた。彼女と目が合う。いたずらっぽい笑みのあとに、すかさず向けられるスマホのレンズ。
「本日の主役、スペシャルフルーツパフェ! ついでに協力者、エグザベくん! ほら、笑って!」
「いや、急に言われても……」
戸惑いつつ、とりあえず笑顔を作ってピース。
シャッター音のあとに「眼福」とか「ごちそうさまです」という平和な言葉を聞く。彼女は今日も通常運転だなあと思う。
シャリア・ブル中佐のもとに配属された初日、「イケオジとイケメンが揃ったので記念に写真撮りましょう!」と嬉々として言われ、面食らったのがもはや懐かしい。側にいると唐突に撮影会がはじまって、たまにこうして巻き込まれる。
「エグザベくんは?」
「うん?」
「撮らないの?」
コモリ少尉に言われて、そういえば最近は全然写真を撮る機会がなかったと振り返る。もともとそんなに撮る方でもないけれど。
僕と違って彼女は日頃からよく写真を撮るタイプだ。被写体は人から食べ物、建物まで様々。日記をつけるような感覚でシャッターを切っている、とか言ってたっけ。
「じゃあ僕も」
それなら気軽な記録としてありかもしれない。僕もスマホのカメラを立ち上げた。
胸元で縦に構える。タップしてピントを調整していると、コモリ少尉がパフェグラスの横からひょっこり顔を覗かせた。茶目っ気のある仕草がいかにも彼女らしくて、そのまま撮らせてもらう。
「写真も撮ったことだし、食べよ食べよ」
コモリ少尉がようやくスマホを置き、パフェスプーンを手に取った。
スペシャルフルーツパフェは複数人のシェアが前提の量だ。パフェ一個に出されたカトラリーは二人分。
……これをコモリ少尉と二人で食べるのか。そう思った途端、妙に意識してしまう。
僕はちらりと右隣のテーブル席に目をやった。学生らしき女の子二人が、僕たちと同じパフェを仲良くつつきあっている。店内の雰囲気に溶け込むように、時折小さな笑い声をもらしながら。
ああいう友達の間柄なら、この場にいても違和感はないんだけど……。職場のただの同僚と来るにしては、いささか方向性が違うように思う。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど、コモリ少――コモリさんは」
つい癖でいつもの呼び方をしてしまい、慌てて言い直す。ここはサイド3じゃない。些細なことだけど、職業柄気をつけるに越したことはない。
「今日はどうして僕を?」
「んー? 昨日は整備クルーの子たちとご飯だったから、今日は誰か別の人と行こうかなって。エグザベくん、普段こういうとこ来なさそうだから、連れてったら面白そうじゃん!」
そう、さらりと答えられてしまうと、僕にはそれ以上何も言えなくて。
かといって、寄港中の休養日に、まるでカップルみたいにパフェをシェアするのは落ち着かない。彼女は気さくだから気にしてないんだろうけど、僕はやっぱり意識してしまう。
でも、せっかく誘ってくれたんだから、気にしすぎて楽しめないのも彼女に悪いか……。
同じ艦に配属された仲間として、食事を共にするのはごく自然なこと。だからこれもその延長線上――そう考えておくのが、一番無難かもれしない。
「ねえ、すごく今更なんだけどさ、エグザベくんって甘いものって平気だったっけ?」
「平気じゃなかったら君についてきてないよ」
このタイミングでそれを尋ねるか。さすがに遅すぎないか、とふっと笑ってしまう。僕が無理だと言ったらどうするつもりだったんだろう。
彼女のプランによると、今日はスイーツ巡りの旅らしい。まずはこのフルーツパフェ、次はキッチンカーのクレープ、その次はアフタヌーンティー。あとは頑張る自分のお土産用に日持ちするお菓子をいくつか。カロリー消費とお腹を空かせるために電車は使わず歩き回るコースだとか。
ただ、こんな甘いものラッシュ、僕の胃がどこまで耐えられるのか……とりあえず胃薬はコモリ少尉に内緒で持ってきた。あと、急に塩気がほしくなったときのために、塩タブレットも。
「一口目はエグザベくんからどーぞ」
「いや、コモリさんが先に食べてよ」
「いいの?」
「うん。綺麗すぎて、僕が最初に崩すのは気が引けるから……」
「えー、なにそれかわいい」
あぁ、やっぱり「かわいい」って言われるのか。恥ずかしいからその言葉を僕に使わないでほしい。
「エグザベくんってさ、ときどきすごくかわいいこと言ったりするよね。この前焼き魚が出たときの大根おろし、猫の形だから食べられないーって」
一言物申そうとして、ぐっと飲みこんだ。あれはそういうつもりで言ったわけじゃなくて……。でも違うと反応するのもそれはそれで見苦しい。結局、僕は黙ってコーヒーをすする。
かわいいと言われるのは納得いかない。でも言ったのは事実だから否定できない。
だって、ソイソースで描かれた模様が中学時代に同級生とこっそり世話をしていた野良猫にそっくりだったから。思わず懐かしくなって、あいつは今どうしてるのかなと想像した。ルウムが戦争に巻き込まれる前に天寿をまっとうしていたらいいな、と今更願ってしまって。そしたら食べるに食べられなくなってしまった、というだけだ。
「……僕の話はいいから、早く食べなって」
「ふふっ。じゃあ私からいただきまーす」
コモリ少尉はスプーンを手に、パフェの上から下までスキャンするように見た。どこから手をつけようか考えているらしい。
明るくやわらかな照明の下で、どのフルーツもツヤツヤと宝石のように輝いている。経済建て直しの真っ最中のサイド3では、高級店でしかお目にかかれないものもあった。選り取り見取りのフルーツに目移りしてしまうのも分からなくはない。
「あーどれからいこう……迷うなあ」
「それならシンプルにてっぺんからは?」
「お、いいね」
てっぺんには真紅の大粒のいちごが鎮座していて、まさにルビーの原石みたいだ。土台の真っ白な生クリームに映えて一層輝いて見える。
少尉がパフェにスプーンを差し込む。たっぷりの生クリームと一緒にすくい取られた形の良い果実が、静かに口の中に運ばれる。彼女が口を動かしたその瞬間、青と黄金色の瞳が大きく丸くなり、すぐにふわりと嬉しそうに細められた。
「ん〜〜っ!! おいしい! ヤバイめっちゃ甘い!」
その声も表情も、一切の飾り気も嘘偽りもなく、心の底から幸せそうで。気づけば僕もつられるようにスプーンを伸ばしていた。
てっぺんの一個下にあるハーフカットされたいちご。パフェを崩さないようそっと慎重にすくう。スプーンから伝わる生クリームの感触が思いのほか軽くて驚いた。
フレッシュな香りを楽しんでからハリのある果肉をかじると、じゅわっと甘い果汁が口の中に広がった。くどすぎない甘みの奥にささやかな酸味がある。
……こんなにみずみずしいいちご、いつぶりだろう。子どもの頃に家族でいちご狩りに行ったとき以来かもしれない。そもそも、フルーツをこんなにじっくり味わったことなんて、今まであったかな?
じんわり感動にひたるほど格別ないちごの風味を、舌の上でとろけた生クリームがそっと包み込む。なめらかに混ざり合った余韻がたまらなく絶品で、
「――うっま」
と思わずつぶやいていた。僕の言葉にコモリ少尉が目をキラキラさせてうなずいている。
「ねっ、ヤバイよね!」
「うん、本当……予想以上においしい。すごいな、これ」
これはもう、このパーラーに連れてきてくれたコモリ少尉のファインプレーとしか言いようがない。たったの一口で、遠路はるばる食べに来る価値があると確信してしまった。
「こういう大当たりがあるから、スイーツ巡りは楽しくてやめられないんだよねえ」
彼女は上機嫌で再びパフェにスプーンを伸ばした。僕も次の一口を求めて動き出す。
ついさっきまで一緒のグラスから食べることに躊躇していたけど、彼女の楽しそうな笑顔とこのおいしさに押されて、いつの間にか気にならなくなっていた。一口、二口とスプーンが止まらない。
ぎゅっと太陽を凝縮したようなオレンジは、噛んだ瞬間薄皮が弾けて口の中が一気に潤う。マンゴーのトロピカルでもったりした甘みに舌鼓を打って、桃のふんわりとやさしい香りと食感に癒やされる。
夢中になって食べるうちに、気づけばグラスの上が寂しくなってきた。次はメロンだ、とスプーンを差し込んだその瞬間、カチン、と澄んだ音。コモリ少尉がクスクス笑っているのに気づいた。
「ごっ、ごめん!」
「あはは、私よりも夢中じゃん」
彼女はぶつかったスプーンを特に気にするでもなく、「メロンもーらいっ」と素早く薄緑の果実を口にした。とられてしまったのは少し残念だったけれど、幸せそうにゆるむ顔を見ていると、そんな気持ちもすぐに消えてしまう。
フルーツが残り少なくなってきたから、グラスの中の方にもスプーンを進める。バニラアイスとその下にある水色のクラッシュゼリーは、なんとなく地球の雲と空を思わせる。冷たくなめらかなアイスとひんやりぷるぷるしたゼリーの温度差と食感が心地よい。
「どう? 気に入った?」
「うん、すごく。ありがとう、連れてきてくれて」
「どういたしまして」
コモリ少尉はほがらかに笑って、パフェスプーンを置いた。カモミールティーのカップを手にとり、一口飲んで、おだやかな息をつく。
「……ねえエグザベくん。ちょっとはリフレッシュできた?」
「え? う、うん?」
質問の意図がイマイチ掴めなくて、生返事になった。普段、そんなことを訊かれたためしがない。
彼女が少し身を乗り出してくる。どこかのぞき込むような視線だ。
「今日さ、私が誘わなかったら当直当番でもないのに出かけないでずーっと残るつもりだったでしょ」
行動が読まれていて驚いた。彼女は中佐みたいなニュータイプじゃないのに。……いや、単に僕の行動がワンパターンなだけか?
「そんなのつまんなくない?」
「や、僕的には、別にそこまでは……」
「じゃあ今日は何する予定だったの?」
「それは……トレーニングとか、読書、とか」
「そんなのいつでもしてるじゃん」
すっぱりと言い切られて言葉に詰まる。実際、彼女の言う通りだから。
「休養日くらいさ、こうやって外で違うことしようよ」
そう言ったコモリ少尉の表情は明らかに僕を気遣うものだった。僕はぱちぱちと瞬きを繰り返す。そんなに心配されるようなことをしていたっけか? 思い当たる節がまったくなくて、困惑する。
「さすがに木星船団ほど長期間じゃないし、普通の勤務もそれなりにあるけどさ。こうやって駆り出されてる間は、よほどのことがないと自由に降りられないじゃん?」
言われてみれば、たしかに。一度捜索任務に出れば、軍艦という閉鎖空間内で数日から数週間は過ごすことになる。当然娯楽は持ち込んだ私物や仲間同士とのやり取り、あとはSNSとかに限定されるわけで。
僕の場合、全寮制のフラナガンスクールでいちいち煩雑な外出許可を取るのが面倒だった口だから、わりと今の外出制限がある現状に不満はなくて。そういう生活に慣れてしまった、というべきか。
「エグザベくんは真面目だし、立場的にも上からの期待も大きいからさ。休養日には思い切って日常から離れて、普段はできないことを楽しんで、リフレッシュするのも大事だよ」
ソドンでの生活は軍隊という性質上、ルーチンに縛られがちだ。トレーニングや読書は僕にとって当たり前すぎて、それが「休養」とは少し違うのかもしれないって、今さら気付かされた。
「……そうだね。うん。普段、全然考えたことなかったけど」
「でしょ? だから今日私が誘って正解だったね」
コモリ少尉が得意げに言うから、つい苦笑してしまった。
行動を読まれていたのは恥ずかしいけど、その温かい気遣いが嬉しい。
「――そんなわけで、生真面目なエグザベくんにプレゼント」
少尉がニッと笑い、再びパフェスプーンを手に取った。ころんと丸いマスカットが、そっとのせられる。
「男の子って、こういうシチュエーションに憧れるっていうよね?」
そう言った彼女の瞳がいたずらっぽく光る。なんのことだろう、と首を傾げてていると、
「はい、あーん」
翡翠のようにキラキラ輝くマスカットが、するりと僕の口元まで差し出した。
「……え?」
理解が追いつかない。思わずスプーンとコモリ少尉の表情を交互に見てしまう。明らかに何か企んでいる眼差しに、戸惑いが走って。
「ほら。エグザベくん。口開けて。食べさせてあげる」
「――――ッ!?」
察したそのとき、ガタンッと大きな音とともに膝頭に激痛が走った。思わず立ち上がりかけて、テーブルの裏に右膝がクリーンヒットしてしまった。
痛みに悶絶しながらも、僕は必死に首に横に振って「いらない」と伝える。
「なーんだ、つれないなあ」
「〜〜っ、そ、そういうのはッ! もっと、ふっ、深い関係の人同士がやることであって!」
涙目になりながらも、僕ははっきりと返す。僕みたいな人間には刺激が強すぎるから、からかう相手は選んでほしい、と心の中で叫ぶ。
痛いのはもちろん、なんだか顔どころか体全体が熱い。火が出てるんじゃないかと錯覚するくらいだ。隣の席の女子学生たちの視線も感じてしまい、体感温度がさらに上がる。
「あはは、じょーだん。ごめんね?」
「もう……やっていい冗談と、悪い冗談があるだろ」
クスクスと笑う彼女に、僕はじんじん痛む膝を押さえながら息を整えた。
一緒の器をつつくだけでも最初は緊張してたのに、そんなことをされたら心臓が持たない。
「ドキドキしちゃった?」
「……寿命が縮むからやめてくれ」
「はーい」
反省しているのかいないのか、コモリ少尉は飄々と返事をする。なんだかそういう掴みどころのないところが、中佐に似ている。あの上司にしてこの部下あり、と言うべきか……いや、僕もあの人の部下なのだけど。
膝をさすりつつ顔を上げると、彼女がさっきのマスカットを食べるところだった。
長い睫毛が少し伏せられて、翡翠の雫のような果実が彼女の薄い唇に触れる。口の中につるりと滑り込むその様子が、まるで宝石を飲み込んだように見えて。何気ない仕草なのにどこか神秘的で、時間が止まったような感覚に囚われた。
こくりと喉が上下する。睫毛が花開くようにゆっくりと上がり、青と黄金色の虹彩が現れる。
その光景に、思わず息を呑んだ。心臓がドクンと跳ねて、さっきの膝の痛みすら一瞬忘れて見惚れてしまう。少尉の目は、こんなに綺麗な色だったっけ……。贅沢で、美しくて、まるで夢の中にいるような不思議な感覚が胸を満たした。
ゆったりと彼女の目が僕に向けられた。固まった僕をじっと見たあとに、すっと細められる瞳。
「なに、ほんとは食べたかった?」
「…………べ、別に」
「間が開きすぎ!」
うってかわってケラケラと笑う彼女に、再び顔が熱くなるのを感じながら、パフェグラスに目を逃した。
戻ってきた膝の痛みに顔をしかめつつ、少しやけになってパフェグラスの底をぐいっとすくう。スプーンが底に当たってコツンと音を立てると、ルビー色のミックスベリーソースがアイスと一緒に顔を出し、甘酸っぱい香りがふわりと漂った。
一口食べると、ソースの酸味とアイスのまろやかさが絶妙に入り混じる。さっきまでのドキドキや膝の痛みをそっと包み込んでくれる気がして、ふっと心が軽くなった。ただ甘いだけじゃないところが、今の僕にはちょうどよかった。
*
「ちなみにアフタヌーンティーってどんな感じ? 紅茶とスコーンが出るのは知ってるけど」
もう少しでパフェを完食しそうなので、ふと気になっていたことを尋ねてみた。
「んーとね、スコーン以外にオーソドックスなのはサンドウィッチとケーキとかのお菓子かな」
「へえ」
「今日予約してるお店のは季節のテーマに沿ったお菓子がたくさん出てくるみたいだよ。かわいいプチサイズのエクレアとかマカロンもあるみたい」
「小さくてもたくさんか……」
普段なら喜ぶところなのだけど、アフタヌーンティーの前には人気キッチンカーのクレープの予定もある。最後までおいしく食べ切れるだろうか。
不安がそのまま顔に出ていたのか、コモリ少尉は「心配ないって!」と笑った。
「アラサーの中佐じゃないんだし、合間に歩くんだから平気でしょ」
なんだか上官への不敬発言があった気がするけど、聞かなかったことにする。
「……分かった。今日はとことん君に付き合うよ」
「やったー! ありがとうエグザベくん! じゃあ晩ごはんも一緒に食べよ。最後にシメパフェおごってあげる」
「え、またパフェ!?」
「うん。いや?」
「胃が持たないかも……」
「じゃあさっぱりめのジェラートにしよ。甘いものは別腹!」
当然とばかりに微笑む彼女に、なかなか恐ろしい計画に乗ってしまったなと思う。ただ、一日お供すると言ってしまった手前、それを反故にするのも失礼だから。僕は最後まで自分の仕事をまっとうするだけだ。
とりあえず、大雑把でもカロリーとPFCバランスの把握だけはしておこう。今日はチートデイだとしても、運動や翌日の食事で調整はしておきたいから。
「シメに食べるならナッツ系のフレーバーもいいよねー。あ、ワインとかカクテルのフレーバーもあるって」
楽しそうにスマホを触り始めたコモリ少尉に、女の子は強いなと感心……否、恐れ入る。
僕は口直しにぬるくなったコーヒーを飲む。「カップじゃなくてワッフルコーンにしよう!」と彼女が嬉々として言うのを聞きながら、ソドンに帰る頃にはきっとこの苦味すら恋しくなるな、と思った。