高諸②桜が咲く季節だった。
けれど、高坂の心に色はなかった。
尊奈門が逝ったのは、春の初め。任務中の事故だった。気がつけば、高坂の腕の中には血を流した尊奈門がいて——
「高坂さん、守れて…よかった」
最期にそんな言葉を残して、もう戻らなかった。それから、世界はずっとモノクロのままだった。
春が来ても、夏が来ても。
秋が過ぎて、冬が来ても。
花の香りにも、風の囁きにも、尊奈門の気配を探す日々だった。
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お盆の夜、提灯が町を静かに照らす。
高坂は、縁側で一人、月を見上げていた。
「…お前がいないと意味がない」
声に出すと、胸が苦しくなった。
あんなに笑っていた、あんなに側にいた、あんなに…生きていたお前が——
「どうして、お前が、先に逝くんだ」
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