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    yu_ni_mo

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    ちびぐるみが可愛すぎて愛でながら書いた、ネとファとけんまほぬいぐるみのお話です

    #ネファネ
    nephane
    #ネロファウネロ
    neroFaunello

    かわいいものたち / ネロファウネロ【ネロとぬいぬい】
    賢者の魔法使いをもっと身近に、親しみをもってもらえる存在に。
    そんな綺麗事のような政策は今、中央の国で大ブームを起こしていた。記念メダルでさえ難色を示す魔法使いがいたというのに、今度は姿を模した人形ときた。もちろん、特に北の魔法使い達が許可をするはずが無かった。しかし、世の反応を見る目的で先に中央の魔法使い四人のぬいぐるみを販売したところ、思わぬ反響があったのだった。
    王子であるアーサーが圧倒的な支持を得たのは当然であるとして、なんと、想定よりも多く求められたのがオズのぬいぐるみだった。魔王の人形など所持するだけで呪われると言う層の一方で、世界最強を模したそれを飾ればその家は曾孫の代まで守られる─────そんな噂が立つと、少しずつ影響される者が増えていった。そうして支持を得たオズのぬいぐるみは、賢者の世界で言うシーサーのような存在になっている。
    そして、それをよく思わなかったのがミスラだ。任務先の依頼人が世間話でしたぬいぐるみの話題の、『世界最強のオズ』というワードに腹を立てたミスラは、人間である中年男性の頭を握りつぶす勢いで鷲づかんだのである。
    「いいですか、これから世界最強は俺になります。なので、それは捨てて俺の人形を買ってくださいね」

    そういった経緯で、中央以外の賢者の魔法使い達も可愛らしくデフォルメされた姿で愛されるようになった。巷ではそれ用に小さな服を作る者まで現れたらしい。ミスラが手のひらを返したせいで政策を飲み込むしかなくなり、心を無にして流れに身を任せたネロは未だに理解できずにいる。
    (絶対綿出されたりえぐい扱いされてるだろ……怖すぎる……)
    試作品を渡してきたアーサーの嬉しそうな顔に負けて、思わず受け取ってしまった。水色の布の髪を持つ『ネロぬい』は自室のテーブルの上に置いたままで、暫く触れてもいない。
    シノは記念メダルの時と同じように大層喜んでいた。ヒースは勿論とても憂鬱そうだったが、要らないなら寄越せと言われ、今二人の人形はシノの部屋に飾られているらしい。
    食堂で自分のぬいぐるみを見せ合うミチルとリケの楽しげな声を聞きながら、苦笑いを浮かべる。
    ────さて、そんな事より今夜は何を作ろうか。明日の朝食用の卵も足りていないことに気がつくと、エプロンを外して出かける準備を始める。
    今日は確か、中央の市の肉屋も安かった筈だ。
    先にあの店に寄って、その後にあそこに寄ってそれから。脳内で買い物ルートを作りながら街に繰り出したネロはこの日、思いがけない運命の出会いをする事となった。
    「っうわ! 大丈夫か? 」
    野菜の品定めをする腰にぶつかってきた、小さな子供────が手に持つ『それ』に目を奪われる。年のわりにしっかりと頭を下げて謝罪をする三つ編みの子は、すぐに母親らしき女性の元へと走り去っていった。
    白い服を着た人形。あれはクロエがデザインした、賢者の魔法使いの正装だった。頭部の布製の茶と、見慣れた形の帽子。それと薄い色のサングラスを再現しているあれは、明らかにファウストだ。
    試作品が配られた時、ファウストは自分を模したそれを頑なに見せてはくれなかった。気持ちはネロにもよく分かる。これから自分を模した人形が売られるなど、気色悪くて仕方がない。
    だが、あんなに可愛いとは聞いていなかった。困ったような表情で控えめに笑う、手のひらサイズのファウストが忘れられない。
    賢者の魔法使いの人形は、グランヴェル城でしか販売しないのだと聞いている。しかし、自分も商品化された側の身分であるといえ、ふらりと立ち寄れる場所ではない。
    沢山の材料を買い込んだ帰り道、ネロはあれを手に入れる方法を考えていた。何かを得るためにこんなにも真剣になるのは、盗賊団にいた頃以来だった。

    そうして結局、こっそりアーサーに取り寄せを頼むという情けないやり方で、もちもちとしたファウストはやってきた。テーブルの上で雑に転がっている自分の人形には目もくれず、ネロはそれの居場所を寝台の枕元と決めた。横になって、子猫と視線の高さを合わせるように覗き込む。
    「かっっわい…………」
    ほんのりと桃色の頬は晩酌をした夜のようだ。そんな事を考えて指先でツンとつついた時、ネロはハッとした。
    今後この部屋で晩酌をする時は一応隠した方がいいか。ファウストはあんなに自分の人形を見られたくない様子だったのに、わざわざ買われて部屋に飾られているとなれば心地が悪いだろう。
    「ま、その時は魔法で仕舞えばいいか」
    くわあ、と大きな欠伸をして、枕に額を擦り付ける。そのまま眠りについた夜、ネロは沢山の小さなファウストに運ばれる夢を見た。



    【ファウストとぬいぬい】
    呪い屋然とした陰気な部屋に、ちんまりとした愛らしい人形が三体やってきた。明らかに呪術用ではないそれらは右からヒースクリフ、シノ、ネロの特徴が反映された、ファウストが猛反対した中央の政策の産物だった。
    そもそも、人間と賢者の魔法使いとの繋がりなら『魔法使いの家』がある。あくまでも布と綿であるこれらが特定の魔法使いを呪うのに使われる事はないだろうが、それでも理解しかねる。記念メダルと同じくグランヴェル城でのみ扱われるとは聞いていたが、まさかこんなにも人間達が受け入れるとは思ってもみなかった。王子であるアーサーが一員であること、魔法舎を構えている事もあってか、中央の国民は他の国に比べて賢者の魔法使いへの警戒は薄い方なのかもしれない。
    ファウストは薄暗い自室を見渡すと、朝や昼を遮断する黒いカーテンに手をかけた。陽が出ている時間に開ける事はほぼない。ほんの少しだけ光を許すと、机の上で並んでいる小さな生徒達─────を模したぬいぐるみが明るく照らされた。
    「……はぁ」
    雲の切れ目から差す光を浴びているようなその光景に、ファウストはひとりため息をつく。
    アーサーから受け取った試作品は自分のぬいぐるみだけだった。自分を模した物を部屋に置くのはあまりにも抵抗があった為、封印して隠してある。そうしてファウストは人形ブームの一件についてを完全に遮断した筈であったのに、何故、同じ国の魔法使い全員の人形が手元にあるのか。
    それは、『あまりにも可愛すぎるから』だった。
    自分の人形は許せないが、三人を模したもちもちとした姿は可愛らしすぎた。
    ヒースの造形の美しさが下まつ毛をつける事で表現されているのも、シノの凛々しい眉毛で性格を表しているのも、ネロがぽけっと口を開けているのも、全てが可愛い。親バカならぬ『先生バカ』であると言われたら否定は出来ないが、とにかく、ファウストの生徒達は実物も人形になっても可愛らしいのだ。
    とはいえファウストは呪い屋であり、魔法舎に割り振られたこの自室も呪具や陰気な空気で満たされている。可愛らしいといっても、人をかたどった『物』である事も忘れてはならない。この部屋に置いて陰の気を吸っていって、何か悪いものになってしまう可能性もある。
    と、真っ当な理由もあるが、実際はこんなに可愛らしい生徒達が薄暗い場所に居ては可哀想だという自分本位な感情を抱いているだけだった。陽の明るさの中にあるのを見ると、キャンドルの灯り越しよりも可愛さが倍増している気がする。
    ファウストは再びシャッと勢いよく光を遮断すると、ある決心をした。そして、水色の布の頭をツンとつつく。ころんと倒れたその様は、練習中に疲れたと言って芝生に寝転ぶネロのようだった。



    【かわいいものたち】
    コンコン、と控えめなノック音に、部屋主がドアの方向を見もせずに返す。
    「はーい」
    二、三品の簡単なツマミを運ぶ先には、ワインボトルとグラスが待ち構えている。二人で晩酌をするのはもう、すっかり日常の一部と言える。今夜はファウストからの誘いであり、きみの部屋がいいと場所の指定までされたとなると、ネロが浮かれるのも致し方なかった。
    「邪魔するぞ」
    「邪魔じゃないだろ、そこは『来てやったぞ』で」
    「シノじゃないんだから」
    出会った頃を想って、もう見慣れたファウストの柔らかい笑い方に胸が満たされる。長い寝間着を揺らして、事前にもう一脚用意しておいた椅子に腰掛けると、並ぶ皿を見てふふ、と再び笑みを浮かべた。
    「今日もすごく美味しそうだけど、少し多くないか? 」
    「あー作りすぎちまったかも……? 前回、先生これ好きだって言ってくれたからさ」
    「かわいい」
    「やめてよ……」
    晩酌に張り切ってツマミを作りすぎてしまう歳上の生徒を、可愛いと言わずしてなんと言えばいいのか。照れ隠しのようにグラスにワインを注ぐ様子をまた可愛いと言おうとしたところで、ファウストはハッとした。
    「ネロ。実は今夜は晩酌だけではなくて、頼みがあってきたんだ」
    「頼み? ……なんか大変な感じのやつ? 」
    今までのやりとりが前置きだったとでもいうように、ファウストの表情が突然真剣になる。向かいに腰掛けるネロは普段の態度を保ってファウストのグラスにも注ぎながら、頼みとやらの内容を待った。
    「いや、別に大変では……ないと思うが……」
    今度は困ったように眉を下げて、右の人差し指をくいと小さく動かす。すると宙にぽん! と何かが現れ、重力のままファウストの膝上にどさどさと落ちた。
    「この部屋に置かせてはくれないだろうか? 君が嫌がる事はもちろん、考えたんだけど……」
    仔猫を見せてくれるように抱えて向けられたそれに、ネロは大きく目を剥いた。
    「え……先生」
    「言いたい事はわかる! だが、仕方がなかったんだ……こんなに……こんなに」
    感情のままぎゅっと握りしめるファウストの手の中で、水色頭のぬいぐるみが若干歪になってネロを見ている。こんな時でも口が半開きであるシュールさと、人でも殺めたかのようなファウストの様子に思わず吹き出した。
    「え、待ってこの状況なに? 」
    左手にヒースとシノ、そして右手で鷲づかんでいるネロ。試作品の自分以外の『賢者の魔法使いぬいぐるみ』を持っているという事は、つまりそういう事だ。
    ネロはひとしきり笑った後、同じように何も無い場所から隠していた物を取り出した。
    「俺も先生のぬいぐるみ持ってるよ。これヤバいよな、自分のは全然可愛く見えないのに、他の奴のはすっげぇ可愛く見える」
    本人が訪れる前に魔法で隠したファウストぬいは、ネロの手のひらの上にちょんと着地する。頭でっかちで自立できない身体は後ろに倒れて、持ち主の手遊びによりもちもちと揉まれた。
    「そうか……ネロもそうだったのか」
    ホッとしたような気恥しいような、むずむずした感情に見舞われるファウストが小さく言う。ネロの硬く、厚く、料理に打ち込む逞しい手が自分を模したぬいぐるみを持っている。その手元から顔に視線をやると、そこにある穏やかな表情にファウストはサングラスを押し上げて照れを隠した。そしてふと、ある事に気がつく。
    「きみのぬいぐるみは? 」
    「え? あー……晩酌の邪魔だからってテーブルから退かして、どこやったっけ」
    「なんだと?……おい落ちてるじゃないか、かわいそうに」
    テーブルの下を覗いたファウストが腕を伸ばして、ネロの足元で踏まれそうになっているのを救出しようとする。手が届いて拾いだしてみれば、そのぽかんとした顔に思わずふ、と笑いが込み上げる。
    「っははは、この顔最高だよ。ネロのクセがよく反映されてる」
    「俺こんな口開けてる……? 」
    「開けてる」
    「えーマジ? そうかなあ」
    「これで中央の国民に『口が開いてる賢者の魔法使い』として認識されるな」
    「嫌すぎる……俺アホみたいじゃんそれ」
    笑い合いながら、ぬいぐるみ片手にグラスを傾ける。自分はこんなに眉が下がっているかというファウストの疑問、ヒースとシノのぬいぐるみが可愛い話、そこから本物の子供達の可愛いところへと話題はころころと変わっていく。笑ったり拗ねたり、しみじみしたりと過ごす時間はあっという間で、気持ちよくアルコールのまわった頃には日を跨いでいた。
    「やっぱり僕の可愛い生徒達には、陰気な僕の部屋よりここにいてほしい。いつでも会いに来れるし」
    「いやそこはぬいぐるみじゃなくて俺に会いに来てよ」
    「そうしたら晩酌をしない夜でも、きみの部屋を訪れていい理由が出来てしまうな」
    行儀の悪い目の前の男を真似して頬杖をつくファウストは、グラス伝いの冷たい手に酔っている事を自覚する。一方、かなりの大胆発言を受けたネロはというと、酒に色付いた頬で聞き返しながら、小さなファウストを揉みしだく事しか出来なかった。
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