跳んで、うさぎさん〜バニー祭り、前日譚〜バニー祭り、それは子供の成長と子孫繁栄を願って人々がうさぎの格好をしたり、うさぎを模したお菓子を食べたりするお祭り行事である。
そしてニューデルスタにて、祭り前日の独特な賑いを聞きながらテメノスとソローネはとあるカフェで向かい合っていた。
「…衣装を提供くださりありがとうございます、ソローネ」
「うんまあ、服の調達はちょろかったからいいんだけどさ…ほんとに着るの、それ?」
「仕事ですので。仕方ありません、腹は決めています」
「あ、そう。知ってると思うけど、大分際どいよ?それ」
「うう…分かってますよ…ですが、仕方ないでしょう。明日は、かつらや化粧よろしくお願いします」
「ほんとにやるんだね〜。頑張って異端審問官様」
「…気が重い」
げんなりとした様子でテメノスはソローネから衣装の入った袋を受け取った。
その袋には、夜のバニー祭りを楽しむための大人の女性用衣装がその中には入っていた。
「毎年、この祭りで違法なお菓子や子供たちの誘拐が特にこのニューデルスタで頻繁に起きています。祭りに参加する女性神官がバッドトリップするお菓子を掴まされて、という被害情報も聞きました。そんな非人道的なことを流石に教会としても聖堂機関としても放っておけません」
「それで、あんたが囮調査すんの?」
「はい。女性神官や女性騎士にやらせるには危険すぎる、ということで白羽の矢が私に立ちました…たって…しまいました…うう…」
「中肉中背の背格好で、」
「はい」
「それでいて一人で賊をぶっ飛ばせるくらいには実力があって」
「ええ」
「化粧と衣装で誤魔化せそうな」
「うう…」
「30歳童顔異端審問官さま」
「…」
「ご、ご愁傷さま」
顔を反らしながらソローネはプルプルと震えている。笑うなら笑うといい。
「…この歳でこんな格好するはめになるとは思いませんでした」
「ご、ごめん。くっ、ぷぷっ!いつだったかあんたが神官様のお祈り教えてくれたみたいに大人のお姉さん達の演技でも教えてあげようか?」
ソローネが楽しそうに笑う。
「いりませんよ、そんなの。勝手にやってきた輩を片っ端から審問します」
「はあ〜〜〜、ふふっあははっ!それじゃあ、とびっきりの美女にしあげてあげるよ」
「…よろしくお願いします」
テメノスは物凄く不満そうに言葉を返した。
明日に期待する街の人達とは裏腹にテメノスの気分は最底まで落ちていく。