夢を一時 サースティが夜の社内の技術部を歩いていると案の定フロイドがふらふらと覚束ない足取りで歩いていた。
「あの仕組みをあそこに応用して…いや、それよりも冷却技術の向上を…」
ぶつぶつと呟きながら廊下をふらふらを彷徨い歩いている。
「…はあ、またか」
とうに勤務時間は過ぎている。夜勤だったとしてもこの時間にふらふらとしているのはおかしな時間だった。
「また交代時間を無視してのめりこんでいる、というのは本当だったか。まったく…」
仕事にのめり込む事は悪いことではないが、きっちりと休むことを無視した結果が大惨事を招くことを重々承知している身としてはフロイドの姿は無視できない。とっとと休んで貰わないと困る。以前、パルテティオさんの仲間のお陰で一時の休みを与えたのにまるで休むことの優位性を学習していないとみえた。
「…フロイド」
つとめて、優しく。精一杯なるべく優しく声をかけた。
「んぁ…?あ、サースティさぁん」
目が死んでいる。どうにかしなければとサースティが頭の中であれこれ考えてる最中にも「サースティさん」と呼びかけながら何やらあれやこれやと語っている。
「聞いてますう?ねえ、聞いてくださぁいよぉ…サースティさぁん」
「…貴方はとりあえずベッドへいってください」
「え、ベッドで聞いてくれるんですか?」
「はいはい、聞いてあげますから。とっとと部屋を教えなさい」
「んへへ、サースティさん僕の部屋に来てくれるんですね」
「まったく、貴方を運ぶだけですよ」
寝不足ゆえのハイなのか、フロイドが酔っぱらいのように妙にサースティに絡みつく。社内の廊下を歩きながらたどたどしく説明するフロイドの言葉を解析し、なんとかフロイドの部屋へとたどり着いた。フロイドをベッドに寝かしやっと一息つく。
「まっっっったく、なんで私が…」
「へへっ、サースティさぁん」
「……なんです」
「ありがとうございます」
「…仕方がなく、ですよ。以前もきちんと休みなさいと注意したでしょう、まったく。今後は睡眠は適切にとるように」
「はーい……あ、サースティさん」
「…なんです」
フロイドに手招きされサースティはフロイドへと近寄る。と、同時に頭を手で抑えられ唇を奪われた。咄嗟の出来事に身動きが出来ない。
「ん、っ!!?う、ぐ…」
何度も角度を変えて唇を貪られた後、ようやくフロイドは唇を離した。
「ずっと好きだったサースティさんとこんなこと出来て夢のようです」
「………は?」
訳が分からない。真意を問いたださそうとフロイドを見れば既に夢の世界へと飛びたった後だった。すよすよと気持ち良さげな寝息をたてている。
「っき、貴様…」
仕事一筋だったサースティはこれがファーストキスだった。肝心の告白も、キスも、サースティからの応えを聞く前にフロイドは眠ってしまった。
「…っせめて責任をとらんか…ばかものっ」
どうすることも出来ない甘い感触を残し、サースティは暗闇の部屋で一人どこへも吐露出来ない感情を抱えていた。