宿屋の店主と紫鸞と元化「ふーん、紫鸞殿ってやっぱ変わりましたよねえ」
「顔色が良くなったというか、まあ何か変わったことは見ればわかりますよ」
「そうですねえ」
「武芸者だと言っていたのに、ついに将になるとは思ってませんでしたよ」
店主と元化の視線の先で紫鸞は荷物をまとめていた
来た時は笠だけだったが武器が増え、服が増え、書が増え
いつのまにか一人では持てないほどの荷物が部屋にはあった
「しかも家まで用意してもらえるなんて、立派になられたんですねえ」
「そんな親みたいな」
「割と長い付き合いですからね」
店主はものが増えた部屋を見渡していた
元化の薬草もあるから二人分ではあるが、最初に比べると狭くなったと感じているのだろう
「店主」
「はい、何か御用で?」
「宿代だ」
「……家をもらったのでは」
「それはそれ、ここを出ていく気はない」
「……てっきり、出ていかれると思ってましたよ」
「ここを気に入ってるから」
家は確かにもらったがそれは戦が続いたりした時に休む場所だった
何もなく、誰の気配もしない
記憶がない状態で初めて入ったあの宿の印象が強く残り
貰った家が帰るための、自分の場所とは受け入れるのが難しかった
「これからも頼む」
「こちらこそ」