バデ逮捕からオク目覚めるまでの間のバデ審問「ハァ…予想はしてたけど、何にも教えてくれないね。」
殺風景な異端審問所で、ノヴァクはため息をついた。目の前に座らされている異端者は何度棍棒で殴られても頑として口を割らない。
異端とされる宇宙論について研究していたこの修道士、右目に眼帯を装着して、顔面に大きな創傷が2つ走っている。縄で縛られている腕も傷だらけだ。喋れる程度の怪我では口を割らないだろうことは明らかだった。聞けば禁書を読んで目を焼かれ左遷された修道士として一部の聖職者の間では有名らしい。
いつもの私なら、面倒くさいなあとボヤくような仕事だが今回はわけが違う。この男は私が何よりも大切にする娘に、ヨレンタに近づいた許されない異端だ。みすみす罪を誤魔化されたりはしない。絶対に断罪してやる。
ノヴァクは静かにブチギレていたのだ。
「彼が起きるのを待つしかないか…」
「彼?」
「先に捕まったあなたのお仲間のことですよ」
「…!」
バデーニが僅かに目を見開いた。お、とノヴァクは思った。
先に捕まった大男は、ノヴァクをも圧倒する戦いぶりだった。彼はきっと、殺す覚悟も殺される覚悟もあった。彼はこの修道士が逃れるための時間を稼ぐために命を張っていた。そんなことをさせるのだから、バデーニはあの男のことを兵隊として使っているだけに過ぎないと予想していたので、この修道士の反応は意外だった。
まさか本当に共同研究者だったというのか?自分も傭兵上がりだったから分かるが、人殺しを生業とするような下級市民は宇宙論どころか読み書きすら心得ていないものが殆どだ。そんなことはありえない。しかしこの考えが、異端者たちが娘に近づくことを許してしまったのだ。舐めてかかってはいけない。
「オクジーくんが生きているんですか?」
「生きてますよ。尤も、重傷を負って捕まった日から一度も目を覚ましていないけどね。」
敢えてありのまま伝えた。バデーニは真顔のままだったが、逆に動揺を隠そうとしているのがよく分かる。10年以上異端審問官をしているのだから人の嘘や隠し事をしている顔は何度も見てきた。
「あなたみたいに痛みが効かない人には、身内を交渉材料にする方法が有効なんです。彼が目を覚ませば、すぐに続きをしましょう。」
「……」
やはり明らかに動揺している。
「そうそう、彼ねぇ、あなたを逃がすためにウチの部下を3人も殺したんですよ。聖職者を、3人もだ。情報のために丁寧に看病されているけど、目を覚まして審問が終わったら死刑は免れない。」
「……」
「もしこれが、彼の独断でやったことなら、処刑されるのは彼1人です。あなたは聖職者だし当然知っていると思うが、異端思想も1度目は改悛すれば処刑は免れる。…だがもし、あなたがそれを指示していたなら、バデーニさん、あなたも彼と同罪だ。」
「…私が指示しました」
ノヴァクは確信した。
あの大男を使えばバデーニは吐く。
異端審問官としての初仕事の日よりも、今までになく仕事に熱が入り拳を握りしめた。