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    ぱすた2

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    れーれんあらららさん

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    ぱすた2

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    エク霊ドロライ
    お題 「猫」「しばらく、ついててくれないか。」

    #エク霊2weekドロライ

    ねことわがままねことわがまま


    「……猫?」

     にゃぁ、と細い声が鳴った。霊幻はスーツが汚れるのを一瞬躊躇ったが、犬派とはいえ猫だって可愛い。可愛がってやろうとその場にしゃがみこむ。

    「はは、人馴れしてんなお前。どこの子だ?」

     わしゃわしゃと猫を撫で回す。嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす猫の姿を見て、俺もこうなれたら、と少し考えてしまう。

     それは、恋人であるエクボとの事だ。

    「……お前さん何してんだ。」
    「あ?エクボか。」

     今俺はこの悪霊と恋人関係にある。どうしてこうなったか、考えてみても奇跡としか言いようがない。だってそうだろう、悪霊を自称しておいて面倒見が良く大人なエクボと、画して薄っぺらい言葉ばかり並べ、本心を隠す子供っぽい自分。
     エクボに対して素直になれない事が最近の目下の悩みである霊幻は、幸せそうに撫で回される猫の素直さが少し羨ましかった。

    「なんか寄ってきたんだよ、コイツ。人馴れしてるみたいでさ。」
    「ほお。俺様も撫でていいか。」
    「あ?なんで許可いるんだよ。」
    「じゃあ俺様も……って、逃げちまった。」
    「はは、お前が悪霊だからじゃね。」
    「なんとなくバレちまったかな。」

     残念そうに肩を落とすエクボを尻目に見て、コイツも案外可愛いところがあるんだな。と霊幻は感じた。そこではたと思いつく。思いついてしまった。
     ……俺、エクボに可愛いって思ってもらえてんのかな……。
     いつも憎まれ口しか叩けないし、面の皮が厚いとまで言われる始末。それでもこの悪霊が何故霊幻と付き合っているのか、霊幻には果たして分からなかった。

    「……なぁ。」
    「ん?」
    「いや、なんでもない。」
    「ンだそれ。つか、依頼はどうした。」
    「あっ。」
    「お前さんなァ……。」

     猫と戯れていて、この後の依頼のことを少し忘れてしまっていた。その為にエクボに身体を借りてきてもらったというのに。

    「ま、あと十五分は余裕があるように出てきたからな。」
    「そうかい。」
    「よし、いくか。」

     ぱんぱん、とスーツに付いた毛を払って立ち上がる。よっこいせ、と声が出てしまったのは気にしないでいただきたい。

    「今日は歩きか。」
    「近場だからな。」

     エクボと二人連れ立って歩く。なんだかデートみたいでワクワクしてしまう。あと十分程で着いてしまうし、デートどころか仕事だが。

    「なんかさっきからそわそわしてんな霊幻。」
    「なんでもねェよ。ただ、俺の勘が今日の依頼は本物だと告げている。」
    「お前さんの勘がなかなか当たるのが解せねぇんだよなァ。」
    「それはだな、俺が世紀の霊能力者__。」
    「それはいいから。」

     遮られてしまった。聞いてくれたって良いじゃないか。お決まりの流れだし、そもそも霊能力なんてないとハナから分かりきっている訳だが。
     不意に隣から手が伸びてきて、まるで猫を可愛がるように頭を撫でつけられる。

    「おい、何すんだよ。」
    「さっきの猫可愛がれなかったから、代わりにお前さんを。」
    「俺は愛玩動物じゃねえ。」
    「よしよし、可愛いな〜霊幻。」
    「やめろ!外だぞ!」
    「外じゃなかったらいいのか?」
    「言葉の綾だ!」

     気恥ずかしくなってしまって、エクボの三歩先を早足で歩く。

    「……可愛いんだよなァ、霊幻。」

     エクボが何か呟いている気がしたが、びゅう、という風の音に遮られて聞こえなかった。



    「はァ、猫の霊、ですか……。」
    「ここらへんは猫の溜まり場でしてね、交通事故に遭ってしまった猫ちゃんが昼夜問わずイタズラをするみたいなんですよ。」
    「イタズラねェ……。」

     なかなかにタイムリーな霊だ。少し心がいたむが、依頼とあれば仕方がない。早速エクボに喰ってもらおうとエクボにアイコンタクトをした。

    「は、おい。」
    「え?」
    「霊幻!」
    「は!?なになに!?」

     どん、とエクボに押し退けられ、思わず尻もちを着いた。

    「ッた……お前、なにす……。」
    「悪い、霊幻。」

     嫌な予感がした。というのも、先程から何かを目線で追っていたエクボが唐突に霊幻を捉えたこと。避けろ、とでも言いたげだったエクボの呼ぶ声。そして、エクボは何もしていないにも関わらずいきなり謝ってくる始末。
     途端、ぞわりと身体に寒気が走った。皮膚の下から沸き立つ悪寒。ふる、と身体が震えた。

    「……猫、お前さんの中に入っちまった……。」
    「……はァ!?」

     そして流れ込んでくる、件の猫の霊の感情。

     __さみしい、あいされたかった、もっとさわってほしかった。
     
     これはまずい。何がというと、流されてしまう。この俺が。霊幻新隆ともあろう俺が。

    「あー、すみません。猫の霊はこちらで除霊しておきましたので、もう大丈夫です。」

     珍しく何も言えない俺に代わって、これまた珍しくエクボが敬語を使って依頼人に断る。

    「え!?もう終わったんですか?流石、聞いていた通りの仕事ぶりですね……!これでうちのアパートに苦情が来ることはないです、本当にありがとうございます……!」
    「いえいえ。」

     にこり、ぎこちない笑顔を浮かべて見送るエクボ。それから俺を静かに見遣った。

    「……で。」
    「……。」
    「俺様の霊幻にイタズラしておいて、どうなるか分かってるよな?」
    「ひえ。」

     "俺様の霊幻"という言葉にキュンとしたのもつかの間、俺を通して猫を見るエクボの目は今まで見たことがないくらい冷えきっていて、俺に向けられたものではないと思っていても喉が引き攣ってしまう。

    「なんだその声。」
    「え、エクボ……はやく、はやくなんとかしてくれ。」
    「……。」
    「エクボ?」
    「いや、俺様に縋る霊幻てのもいいなと思ってな。とりあえず相談所戻るぞ。」

     変な言葉が聞こえてきた気がするが、気のせいだろう。エクボに連れられて俺は気落ちしたまま相談所に帰ることとなった。





    「霊幻、変な感じするか?」
    「ぅ、する……。ぞわぞわして、気持ち悪いし……。」
    「し?」
    「……猫の、」
    「ああ。」
    「感情?って言うのか、なんか、そんなのに引っ張られそうになる。」
    「……そうか、それは。」
    「……。」

     あいされたかっただけの猫。溜まり場でポツンと輪に入れず、ひとりぼっちだった猫。さみしいという感情が濁流のように流れてきて、気付いたらぽろ、と涙を流していた。

    「……霊幻。」
    「見、んな……ッ。」
    「霊幻、今どんな気持ちなんだ、行ってみたら楽になるかもしれねぇ。」
    「ぅ、……や、おれは……ッ。」
    「そうだな、お前の感情じゃなくて、それは猫の霊のモンだ。だから恥ずかしくねェよ。」
    「……っ、」

     応接用のソファで隣に座るエクボはひどく優しい顔をしていて、胸が高鳴る。お前、いつもそんな顔で俺の事見てくれてるんだな。

    「さ、みしい……。」
    「そうか。」

     先程ととは違い、柔らかく頭を撫でられる。それにすごく安堵して、するすると言葉が出てくる。

    「あいし、てほしい、……っ、俺も、おれ、のことも……っ。」
    「めいっぱい愛してるじゃねえか、俺様は。」
    「うん……。」

     どうして、どうしてエクボはこんな俺のことを、そんなに愛してくれるのか、好きだなんて言って、素直になれない俺のことも甲斐甲斐しく世話してくれて。

    「エクボ。」
    「ん?」
    「俺、どうして、俺なんか。」
    「なんかとか言うんじゃねぇよ。お前さんだからだ。理由なんてねェ。気付いたらもう、お前さんしか見れなくなっちまってたんだよ。」
    「……、ふ、えく……。」
    「ああもう、泣くな泣くな。お前さんに泣かれるとどうしたらいいか分かんねえよ。」

     ぎゅ、と抱きしめられる。スーツが汚れる、と思ったが、涙が自由自在に止められるなら苦労はしない。

    「この際思ってること全部吐いちまえ。」

     ぽんぽん、と背中を叩かれて、安心感から余計に頬を伝う水が止まらなくなる。いいのかな、言っても。引かれないか。少し怖い。

    「な?」

     顔を覗き込まれる。優しい顔、優しい眼。大丈夫だ、暗にそう言われている気がして、気にしていたことが、隠していたことが、出てきてしまう。

    「俺、エクボに迷惑かけてばっかで、」
    「うん。」
    「エクボは優しいのに、俺は素直になれないし。」
    「うん。」
    「いつもお前に甘えてばっか、で……っ、」
    「……。」
    「俺だって、お前の力になりたいし、好きだって気持ちも伝えたい、のに、……、俺が可愛くないから、いつか……ッ。」
    「いつか、なんて考えんじゃねェ。」
    「ふブッ。」

     無理やり顔をエクボの胸板に押し付けられる。涙と鼻水で苦しくて、余計息が出来なくなる。でも、その力の強さがエクボの気持ちを表しているみたいで。

    「えく、」
    「素直なだけのお前さんなんか気持ち悪いだけだ、とも思うが、それはそれで可愛いだろうよ。俺様はもう、お前さんだったらなんだって可愛いと思っちまう病気にかかっちまってるンだよ。」
    「……、かわいい?」
    「今日もずっと可愛かったぞ。猫を撫でてるのに始まって、依頼人の話を聞きながらいつもみたいに口元触ってたのとか、……正直、猫の霊が入った時の怯えてた顔も、そそる。」
    「ッえ、」
    「な、霊幻。身体、どうだ?」
    「あ……。」

     気付いたら身体が軽くなっていた。泣いてしまったせいで頭は重たいが、先程まで感じていた悪寒や、感情の濁流というのはなくなっている。

    「なんか、楽。身体が軽くなったみたいだ。」
    「じゃあそいつはもう、成仏したってことか。」
    「……っ、そっか。良かった。」
    「なんで?とか聞かないんだな。」
    「まぁ、なんとなく分かるから……。」
    「へェ?」

     きっと愛されて、愛されてる実感を俺が得れた事で、同調していた猫の霊は満足して消えたんだろう。

    「……その、ありがとう。エクボ。」
    「ま、いいってことよ。」

     それからまたするりと俺の頭をひと撫でして、立ち上がろうとするエクボ。今日の業務時間はそろそろ終わりだ。身体を返しに行くのだろうか。

    「なぁ。」
    「なんだ?」
    「もうひとつ、言っていいか。」
    「内容による。」

     ふふ、と笑ってしまう。きっと俺がどんなわがままを言ったところで、付き合ってくれる癖に。

    「もうすこし……。」
    「ああ。」
    「しばらく、ついててくれないか。」
    「願ってもねぇなァ。」

     エクボも今、俺と一緒にいたいと思ってくれていた。その事実が嬉しくて、きっと今同じ気持ちだろうなと感じながらエクボを見た。

     夕暮れに光る相談所のソファで、影がふたつ重なった。
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