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    NIRJEGG

    @NIRJEGG

    20⬆️ 成人済 夢女

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    NIRJEGG

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    この城砦内では常日頃何かしら事件が起こっている。
    ちょっとした住民同士の小競り合いや向かい側に住んでいるおばあさんが階段から転げて怪我したなどは日常茶飯事。たまに怖い人たちが城砦の奥深くで何かの取引をしたり。そういった大きいことから小さいことまで城砦の全てに関わることは福祉委員会の会長と副会長である彼らが常日頃対応している。今日も同じ日が続くのだろうと思っていたある日、その事件は起こった。

    日曜日は私が手伝いしてる商店は休みなため、貴重なその1日の休みはお昼までゆっくり寝て、洛軍とお昼を食べた後は商店の買い出しを手伝ってもらい、溜まった家事をするのが日曜日の日課であった。

    「おい!ナマエ何時まで寝てんだ起きろ!」
    私に割り振られた4畳ほどの小さな部屋。ほとんど寝るためだけに使っているため広さに問題はないが、所々ガタがきている古びたドアを勢いよく開けながら信一が騒ぎながら入ってきた。
    布団の中から手探りでベット横の小さい棚に置いてある時計を手繰り寄せ、寝ぼけ眼で見ると朝の5時半、日曜日の私にとっては早朝にもほどがある。

    「……信一、あんたうら若き乙女の部屋に無言で入るなんていい度胸してるわね。龍哥に言いつけるわよ」
    のそりと起き上がり、寝起き特有の掠れた声で彼に苦言を示すと、普段の飄々とした彼からは珍しく、いつも色男が増しているなと自分で言いながらセットしている髪型も乱れ切っており珍しく誰の目から見ても焦った様子で息を荒くした信一が立っていた。あまりにも彼が勢いよく入ってきた上に朝早くから騒いでいるのをみてイラつきながらも髪の毛を手櫛で整えながら対応してると彼は知ったこっちゃないという素振りを見せながら私を急かした。

    「お前の部屋なんて今更微塵も興味ねぇよ…じゃなくて! 龍哥が…って…あぁ!説明するのがめんどくせぇ!」
    とりあえず早く来い!と着替える間もないままベットから腕を勢いよく掴まれたと思うと寝起きそのままの格好で外に引っ張り出される。
    「ちょっと…流石に靴だけは履かせて!!」

    ほぼ寝巻きの連れてこられたのは、龍捲風の家だった。私もまだ数回しか入ったことの無い彼の家のドアを勢いよく開けてズカズカと部屋の中にはいっていく。
    「おい四仔!まだ龍哥は元に戻ってないか!?」
    「あのねぇ信一、私の貴重な休みを叩き起したからにはよっぽどの事なんでしょうね…」
    うんざりしながら部屋をくるりと見渡すと彼の手綱を握るであろう部屋の主の姿はおらず、何故か四仔がベットの前にしゃがんでいた。なんで四仔が?と疑問に思う前に彼の背中から除くようにベットに目線を向けると、その場にちょこんと座っていたのは、黒いモフモフ…ではなく、そう、黒い犬だった。
    「待って待って待って。龍哥が犬になった?…って何?」
    「俺も聞きたい」
    私と同じように起こされて呼び出された四仔もこの状況に頭が追い付いていないようだ。

    彼が犬を飼っているというのは聞いた事がない。彼は最近どちらかというと猫好きで知られていたし、何よりこの辺りにいる犬は野良犬が多くあまり犬を飼っているという住民は多くなかった。
    スっと細い鼻を匂いを嗅ぎ分けるかのようにフスフスと鳴らし、しゃんと背筋が伸ばして周囲に目をやる目の前の犬は、言われてみればただの犬にしては威厳がやけにある。黒くて艶やかな毛並みを持った犬…もとい龍哥は困惑し続ける私たちをジッと見つめてた。
    信一が部屋に入った瞬間、犬を指さして「これが…龍哥なんだ…」と言った瞬間、ああ、こいつも遂に変なクスリに手を出したのかと頭を抱える私たちを静かにジッと丸く黒い瞳で見つめる犬を見ていると確かに信一がこの犬を龍哥と言うのも間違いない気がしてきた。私も知らない間に変なクスリを盛られたか?と目を何度か擦って何度もベットに座っている犬を見つめる。ご丁寧に犬のサイズに合わせられ、彼が理髪店で着ている制服代わりのキューバシャツをキリリとした表情で着る犬、もとい龍哥を見てあぁ…と確信を持つのに時間はかからなかった。

    信一曰く、福祉委員会の朝の見回りに来なかった龍哥を不審に思い、何か緊急事態が起こったのではと家を確認しに玄関のドアを叩いているとガチャリと音を立てたがドアを開けても龍哥は現れず、疑問に思った信一が目線をふと下に向けるとドアを鼻で開けて出てきた龍哥が居たという。それを最後に信一は記憶があまり無いらしい。

    「うん…うん…一応状況は分かった。四仔はなんで呼び出されたの?」
    「とりあえず四仔に聞いたら治せると思った」
    「馬鹿?」
    よっぽど混乱していたのだろうが流石の四仔も為す術ないだろう。逆にこういったことにも精通しているほうがおかしいだろう。

    「流石に俺もこんな事は始めてだ」
    「こんなこと早々あってたまるかよ…」
    「で、どうすんのよ、この龍哥を…」
    「…分からん」

    とりあえず信一はあまりこの状況が広まるのは良くないだろうと、城砦の人達に龍哥は急用でしばらく対応が出来ないということを伝えるためにまた外に飛び出していき、四仔もとりあえず何か解決できることがあるかどうかを調べにいくとのことなので私が龍哥の様子を見ておくことになった。というか彼が犬になった!なんて誰に言っても変なクスリに手を出したと思われてまともに取り合ってもらえるわけないだろう。いつ彼が元の姿に戻るかもわからないし龍哥があまり不在であるとここの治安にも関わってくる。

    風のように去っていった彼らを見送り、ちらりと横目で犬の彼を見ると彼もちらりと私を見上げては、尻尾を小さく振りしばらくお互い見つめあう。
    「……ねぇ、龍哥?ほんとに龍哥なの?」
    彼は何も言わない。それはそうだ。当然だけど。
    でもその黒い瞳を見ていると何も言ってないのに、肯定している気がする。なんだかしゃべらない分、逆に感情がよく分かるようになっているようだ。
    私はぐるりと周囲を見渡し人の気配がしないことを確認してから彼の前にしゃがみこんで彼と向き合う。ふわりと犬特有の匂いの中に龍哥が普段から吸っているウィンストンの甘い香りがしてくる。
    「…ねぇ龍哥、ちょっと触らせてもらっていい?」
    私がそう言うと、彼がぴくりと耳を動かす。これは触っても良いということだろうか。おそるおそるピンとたっている耳を優しく撫でるとくすぐったいのか耳が細かく動く。そのまま顎の下を撫でると気持ちいいのか目を細めながら私の指に顎をこすりつけるように頭をあげる。こ、これは…
    「…龍哥かわいい~!!!」あまりの可愛さにがばりと抱きつき頭に鼻を擦り付けるように香りを吸うと驚いたのか体をびくりとこわばらせ少し唸った。
    「あ、ごめんね…」バッと離れると彼は気にするなという言っているのか鼻を鳴らし、座るのに疲れたのかゆっくりとベットに伏せて私をちらりと上目遣いで尻尾をゆらりと揺らす。

    そっと前足で私の脚をつつくので正座していた足をベットに伸ばすと頭を私の膝にぽすんと乗せてきた。ほっぺたをふにって引っ張ってみる。抵抗しない。大人しく撫でられてる。え、なにそれ可愛い。普段ならこんなこと彼にできやしない。どうせいつ戻るか分からないならこの状況を楽しませてもらおう。耳の付け根、首筋、背中まで余すところなくふわふわの彼を撫でると控え目に乗せられていた膝に体重がかかる。

    「普段はわたしがこうしてもらってるのに今日は逆だね。わたしが撫でてあげる側なのなんか斬新…」それに応えるかのように尻尾を一回揺らした彼は静かに目を閉じてそのまましばらく私に頭を預けていた。
    その後、想像通り元に戻るような方法も見つからず、夕方疲れて帰ってきた信一と四仔をソファで寝ころびながら出迎えた私たちを見て「なんかもう、焦ってるの馬鹿らしくなってきたな」とぼやいた信一の顔は一生忘れないだろう。

    翌朝。彼の様子を見ておこうと彼の家に泊まった私はまぶたの奥に明るさを感じながら目を覚ました。夜はソファで彼を腕の中に抱きしめながら寝てしまったらしい。少し肌寒くてかけていた毛布が少しずれていて夜まであった温もりが消えていた。思わず毛布の中を見ると彼の姿はなく「え!?龍哥?」と飛び起きる。すると後ろから「起きたか」と低くて、よく通る、いつもの声が聞こえてきた。振り向くとそこには人間の姿の彼が立っており、私は思わず、「……戻ってる」と静かに呟いた。

    「え?本当に戻ってる?」
    「ああ。目が覚めたら、もう」
    「な、なんだったの、一体……!」
    「…それが分かったら苦労はしない」
    彼も少し疲れたようにサングラスを外して眉間を揉んで深いため息を吐いた。

    「そういえば、名前」
    「はい?」
    「昨日はよく撫でていたな、俺はいつもあんな風に触っていたか?」

    龍哥は目を細め、どこか含みのある笑みを浮かべた。一瞬、彼が何のことを言っているのかわからなかったが少し考えて彼の言葉をかみ砕くと彼の発言に気付き一気に顔が熱くなる。
    「え、あ、いや、ちょ、ちょっと、それ言わないで…!」
    「悪くなかったな。耳の後ろ、特に」
    「わーーーっ!やめて!」
    自分でもわかるくらい恥ずかしさで体が熱い。すぐ近くにあった枕を彼の胸に押し付けて声にならない悲鳴をあげる私を彼はまったく動じず、穏やかな顔で私を見つめ続けていた。
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