「…あ」
うつらうつらとソファで低い天井を眺めていたら、床に落ちた音と、パリンという乾いた破裂音が重なった。
ナマエは、ソファから体を乗り出して蛍光灯の光を拾ってチカチカ光ってる床のタイルに散った破片を見つめた。
いつも彼が時間がうんざりするほど身だしなみを整えている時に使っているものがどうしても欲しくて数年前、彼にねだって似たデザインを買ってもらったものだった。
「割れた鏡って、不吉なんだっけ…」
ポツリと呟いて、彼女はため息をついた。いつも数センチ手を伸ばしたら壁に手が届くくらいの距離にある隣のビルからは人がせわしなく出入りする音が響き渡っているのに、今日に限っては驚くほど静かな部屋。テレビはついているけれど、古いせいか雑音にかきけされたニュースキャスターの声が遠く聞こえた。
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