いろはいろふわり、舞う花弁に掌を差し出すと誘われるように落ちる薄紅色。
少し端の草臥れた小さな欠片に夕飯は鮭でも焼くかと思案しながら零れ桜に身を隠す。あぁ、確か三切れ入りのパックを買っていた筈。
食べ盛りの野良猫には少々勿体無い気もするが鮭ちらしにしても良いかもしれない。
どうせのこのこと家まで着いてくるであろう、先程まで数歩前を歩いていた野良猫を呼び止めたくて手を伸ばせば随分と荒れた息で腕を掴まれてしまった。
「お前……桜だったのかよ…」
「…はい?」
此奴は何を言っているのだろう。
冗談を言っているようには見えないのが殊更厄介だが真意が見えない今、乗ってみた方が面白いと判断して目を伏せ緩む口元を袖で隠す。
「バレてしまっては仕方がありませんね…実は小生は桜の精なのです。二十五歳を迎え桜が満開になる頃に天からの迎えが来て、麻呂は桜の世界に帰らないといけないのでおじゃ…」
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