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    Tama

    那翔/宇善/ドラみつ/むーなほ/体調不良/センシティブ

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    那翔

    10 years「まだ6月っつーのに暑いよなぁ。」

    風通しの良いベランダで公園の木々を見下ろす那月の隣に並んで空を見上げる。
    太陽と光を浴びる那月の髪が眩しい。

    「でも今日は風が緑を纏ってて気持ちいいです。光合成日和だね!」

    めいっぱいに息を吸い込んで、おもいっきり吐き出すそれが光合成の役割なのだろう。

    「何かお前なら出来そうな気がする…」
    「出来るんです!」

    ムキになって言い張るから呆れて顔を見遣れば、視線がかち合った瞬間にふわりと微笑むその顔があまりに綺麗で。
    見慣れてる筈のその顔に思わず照れて目を逸らした。

    「ダメだ、風があってもやっぱ暑い!俺は部屋に戻るぞ!」

    上気した顔は始まったばかりの夏空のせいにして手で顔を扇ぐ。
    背中から「はーい」と聞こえた声を聞く限りまだ外にいるつもりみたいだから、俺は一人キッチンに入って冷蔵庫の冷えた牛乳をグラスに注いだ。

    「翔ちゃん僕にも~。」

    一杯目を飲み干して二杯目をグラスに注いでる間に戻ってきた那月が手を伸ばす。

    「ん、先飲んでいいぞ。」
    「わぁい!ありがとうございます!」

    丁度注がれたばかりのグラスを差し出せば、半分減って戻ってきた。

    「もう良いのか?」
    「はい!」

    残りを飲み干してグラスを洗う。その間も那月はずっと隣にいて…っていつもの光景ではあるんだけど…いつ頃からだっけ。
    学園時代は違った気がするし、思いを伝えた後ももっと距離があった気がする。

    「俺の家事見るようになったのって、いつからだ?」
    「いつからでしょう?ついつい翔ちゃんが可愛くて近くに寄っちゃうんですよねぇ。でも翔ちゃんも僕がお洗濯物畳んでるとお隣に来てくれますよ?」
    「何でか分かんねぇけど見ちまうな。いつからだ?」
    「んー分かりません。」

    一緒に過ごす年月を重ねれば、恋の始まりの期間よりも少しずつ距離感が遠くなる気もするけれど、どうにも那月の傍は居心地が良いんだ。
    仕事ですれ違う事も増えたから少しでも会える時に近くにいたい…のかもしれない。
    ほら、今だって。
    余裕のあるソファに座ってるのに気が付けばピッタリとくっついている。

    今でこの状態なら、これから先どうなるんだろう。

    そう頭を過って考える。
    俺はいつから未来を思い始めた?
    明日のことさえ考えるのが怖くて、治ってからもその癖は抜けなかった筈なのに。
    いつの間にか、仕事だけじゃなく色んな未来を考えるようになっていた。
    ……遠い未来のことも。

    「なぁ、10年後って何してると思う?」
    「うぅん…何してるかな。でも翔ちゃんと、みんなと一緒にいれたらと思います。ずっとこうやって翔ちゃんと過ごせてたらいいなぁ。」

    10年も先なんて存在してるのか分からなかったから、約束をするのが苦手だった。

    「俺は…俺も今はそう思う。」
    「今?」

    だって約束を守れなかったら重い鎖を相手に遺してしまうから。
    でもいつの間にかそんなものは忘れていて、今では数えきれない程に沢山の約束を抱えて生きている。

    「俺、少し前までは10年後の事なんか考えられなかった。それどころかほんの先の未来すら考えることが怖かったんだ。だから目の前の"今"だけを必死に生きて…それが精一杯で。俺の止まってた時計の針を動かしてくれたのは那月なんだ。」

    那月はちょっと変わってて、世話が焼けて、大変な目にも山のように遭って…でもそんな毎日が特別で楽しくて。
    未来を怖がってる暇なんて無くなっていた。

    「そんな事……」
    「いや、本当に。だから俺はこれから先の未来も、那月と一緒に時を刻みたい。その為に同じ日に生まれてきたんだって思ってる。」

    だから……俺と未来を約束、してくれますか?

    「僕だって沢山翔ちゃんに感謝してます。僕は傷付くのが怖くて人から逃げてたりもして……でもね、僕は翔ちゃんに手を引いて貰えたからどんな道でも歩いてこれたと思ってるんです。翔ちゃんといると色んなものがキラキラして見えるの。何百年先も同じ景色見ようね。」

    途中から震えてしまってる声に手を重ねて顔を見上げる。
    下手くそに笑うその顔に胸がギュッと苦しくなって上手く息が出来ない。

    「那月泣くなよ。」
    「翔ちゃんだって…」

    頬に手を添えられてゆっくりと近付く顔に目を閉じれば、唇に柔らかい感触が重なって。

    「ふふ、涙の味がします。」
    「俺、分かんなかったかも。」
    「じゃあ…もう1回。」

    二回目のキスは深く、少しだけしょっぱい。

    「うん。那月、好きだ。」
    「僕も。翔ちゃんが大好き。」

    きっと俺たちはこれから先もずっと「スキ」を伝える為に生まれてきたんだ。

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