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    なんなの

    @honmani_nannano

    日本語 トテモ むずかしネ

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    なんなの

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    洋にフラレまくる三の話

    今日は何の日「なあ水戸、俺達付き合おうぜ」
    「無理、絶対無理」

    本日、めでたくも俺の告白は通算百回目の無理、絶対無理を頂戴した。かかった期間はおよそ一ヶ月。単純に計算すると一日に三、四回のペースだ。俺がなあ、と声をかけた時点で断る気でいた水戸の返答は食い気味で、はっきりと断ったあとは何も無かったかのように購入したばかりであろう漫画のページを捲った。しかも、贅沢にもこの俺の右膝を枕にして寝転んだ状態で、だ。いやおかしくねと首を傾げ、顔を上げて正面に座る桜木達の反応を窺った。すると全員が慌てて俺から目を反らし、そそくさと屋上から逃げ出してしまった。そうなると俺と水戸の二人きりになり、連中の気配が完全に消えたのを感じた水戸が両手にしていた漫画を腹の上へ置いて下から愛おしそうに俺を見つめた。きっと誰も知らないその表情に俺は弱く、フラれたばかりなのにやっぱり好き、と強く再認識した。

    「いやおかしくね」
    「おかしいって、何が」
    「…お前、絶対に俺が好きだろ」
    「そりゃ大好きだよ」
    「………だよなあ」

    無防備となった水戸の頬に触れると嬉しそうに目を細め、仕返しのつもりか、同じように腕を伸ばして優しく俺の頬に触れた。これじゃまるでバカップルそのもの…と言うか、それ以外にないだろう。それなのに、こんなスキンシップを当然としていながら俺が百回もフラれる理由が全く分からない。水戸本人も俺を好きどころか大好きだと認めたばかりで、その言葉に見合った優しい瞳で見つめてくれる。いやいや、じゃあ何で俺はフラれたんだよ、と疑問に思うのは当たり前のことだろう。だからと言ってフラれる理由を追及すると少しばかりコイツは面倒くさくなる。男同士だからだの、世間体だのと言われた方がまだマシに思える。
    俺が水戸に惚れているように、水戸も俺に惚れている。そう確信したのがつい一ヶ月前のこと。両思い確定となれば何も臆することはないと自信を持って告白した俺を水戸は先ほどと同じように無理、絶対無理、と食い気味にフッてくれた。その時もお前は絶対に俺が好きだろ、と少々高飛車に聞こえる質問をしたが、水戸はケロリとした様子でそうだけどと首を傾げた。じゃあ何で俺はフラれたのかと聞けば付き合ったら最後、自分は絶対に厄介な恋人になる自信があるから、とのこと。束縛は勿論、交友関係の監視から私服のチェックなど全て徹底的に行うつもりのようだ。過去にそういった付き合い方をしていたわけではなく、俺限定ときた。それはそれで水戸の新たな一面が見られて面白いし、それだけ思われるならまあ良いか、と俺としては受け入れる覚悟が出来ている。だからその気持ちをそのまま伝えると何故か顔面を鷲掴みにされ、付け入る隙を自ら与えるなと凄まれた。
    水戸としては恋人として余裕の無い姿を見せて幻滅されてしまうよりは友達のまま長く付き合いたいらしい。恋愛にはそういう選択肢もあるのかと納得したのははじめだけで、俺が告白して以来明らかに距離の近くなった水戸の言葉には説得力がまるで無い。胡坐をかいた俺の膝上に頭を預けるのも日常化し、学校の外でも俺が他校の生徒と話しているだけで牽制するよう隣で俺の腰を抱き寄せている。少なくとも、俺の友達の中でそんなことをするのは水戸の他に誰も居ない。

    「あ、次が移動だから先に行かねえと。あと今夜さ、見たがってた映画のビデオ借りたからうちにおいで」
    「…おー」

    突然思い出したように飛び起きた水戸は自然な流れで俺の頬に口付け、またね、と屋上を後にした。そして残された俺が一人、頬に集中する熱を掌で扇ぎながら

    「いやおかしくね」

    と、疑問と不満を口にするのだった。

    「これって結局初恋相手に会えると思うか世界中に顔が知られているわけだし、絶対に邪魔が入るか、相手がこの放送を見て逃げるかも知れねえよなあ」
    「あのコンビニの店員さあ、絶対に三井さん狙いだと思うんだよね。だってほら、箸が三膳も入ってるのおかしくない俺の時は多くても二膳なのに三膳だよ。三膳。オマケするなんて下心があるとしか思えない」

    部活終わりに水戸と合流し、約束通り水戸の家へ映画のビデオを見にお邪魔した。映画を見ている間、水戸は俺に比べると多少小柄な体でどうにか俺を背後から抱き締めようと足を左右に広げ、間に挟まる俺の肩に顎を乗せてひたすら帰宅途中に寄ったコンビニの店員の不満を並べている。いやおかしくねと指摘するのも億劫になり、エンドロールが流れるテレビから視線を水戸の部屋へ向けた。壁には徳男が作った炎の男三っちゃんという文字の入った布が飾られ、試合中に撮影したらしい俺の写真まで額縁に飾られている。

    「いやおかしくね」
    「そうなんだよ。早速本社にクレームを入れよう」
    「そこじゃねえよやめろよおっかねえな」
    「じゃあ何の話帰宅中にすれ違ったチャリのおっさんが三井さんをチラッと見ていたって話」
    「それもちげえし知らねえよ。そうじゃなくて、お前何でこんなに俺を好きなのに付き合わねえんだって話」

    何処で入手したのか、中学時代の俺の写真を見つけてしまいつい口癖が飛び出した。ここまでくると俺を大好きだとかそういう域の話ではないだろう。誤って箸を多めに入れた店員やすれ違ったオッサンにまでイチャモンをつけるほど俺に執着していながら付き合わないだなんて何を考えているんだ。という俺の動揺を見ても水戸はまたその話かとでも言うように眉間に皺を寄せ、はあ、と露骨な溜息をついた。それも、俺を抱き締める両腕の力を強めながらだ。そもそもこの状態で二時間も映画を見ていたこと自体おかしくないか。

    「アンタもしつこいよなあ…何度も言わせないでよ。俺はさ、感情激重厄介彼氏として嫌われてしまうよりは一生友達でいたいんだって」
    「俺の常識の範囲で言わせてもらうと既に彼氏面した厄介な友達なんだよなあ」
    「まあ一生の付き合いになるんだし、細かいことはどうだっていいじゃん。友達としてずっと傍に居るから寂しい思いはさせないよ」
    「………つまり、一生友達のままなんだな」
    「だからそう何度も言ってるじゃん」
    「ってことはだぞ、俺に恋人が出来たら友達として認めて、結婚するとなったら友達として祝福しに結婚式へ出席するんだよな」

    これでどうだ、と水戸の両足の間でふんぞり返ってやった。流石の頑固者もここまで言われると考えを改めるだろうし、友達に向けるには重すぎる嫉妬をするコイツが俺の恋人や結婚に耐えられるはずがない。
    勿論はなから余所見をする気など無いが百回もフラれた俺から言わせるとこのくらいの仕返しは可愛いものだ。これまでのどんな言葉よりも効果があったのか、水戸は黙り込むと俺の肩に顎を乗せたままジッと考え始めた。相変わらず両腕でしっかりと俺の腰を抱き締めたままで、腹へ視線を落とせば何故か喧嘩の最中のように固く握られた拳に青筋が浮かんでいた。

    「ねえ、少年法って知ってる」
    「おいやめろ馬鹿二度とそんなこと口にするなよ」
    「先にけしかけたのはアンタだって」
    「ちげえだろ。俺は付き合いたいって話をしてんだよ」
    「簡単に言うけどさあ…俺に愛される覚悟が本当にある俺絶対にキツめに束縛するし男女関係無く人付き合いにも口を挟むし少しでも露出の多い恰好をしようものなら部屋から一歩も外に出さないし俺にだけエロいサービスして欲しい。大盛りで」
    「おかわりでも何でも好きにしろい」

    この際だ。付き合えるならどんな条件も要望も受けて立とう。という覚悟が出来ているから即答したのにまた水戸はおかしなタイミングで怒り、アンタさあ、と言いながら俺の肩にぐりぐりと額を押し付けた。嫌われたくないと思う気持ちが分からないでもないが、こいつの強情さはどうなんだ。何事も始めてみなくては分からないし、現時点で水戸の厄介ぶりは身をもって知っているつもりだ。十五歳という思春期真っ盛りで好奇心旺盛なところもきちんと理解した上で何度か余裕のある年上として誘惑を仕掛けても、その度にキレて俺の顔を鷲掴みにするのは水戸の方だ。しかし今日の三井は一味違う。何せ百回もの告白に挑んだ男だ。そう易々と諦めるわけがない。今日こそは水戸とカップルとなるため、俺としてもきちんと策を練ってきた。俺に邪な気持ちを持つコイツが間違いを起こさないよう必ず日付が変わるまでには自宅へ送り届けて紳士のフリをしているのだって当然お見通しだ。
    その似非紳士を今夜こそ打ち破り、既成事実を作ってでも恋人として付き合うことを認めさせてやる。

    「とりあえず今夜は泊まるからな」
    「は泊りは駄目だって。俺絶対にアンタを襲うよ」
    「襲えば良いだろ。って言うかこんな時間から今更帰るのも面倒だ。着替えもあるし、風呂借りるぞ」
    「冗談はその面の良さだけにしてよ…いや体も良いけど。絶対に泊りは駄目、お断りだね。ただでさえ部活終わりのアンタの匂いで我慢するのもやっとなのに泊りってなると同じ布団で…襲う、絶対に襲うし一回関係持ったらそりゃあもう見てられないくらい彼氏面するし彼氏になるし幻滅されるほど厄介な彼氏になるから本当に勘弁してほしい。俺を好きなら俺の気持ちも分かってよ。アンタに嫌われたくねえの。簡単じゃない嫌われたくないから清く友達でいましょうねってこれ以上分かりやすい説明は無いと思うんだけど。それとも俺が葛藤する姿が楽しいとかはなめてるそもそもさ、アンタ一人組み敷くくらい簡単なんだよ。それを我慢してやってる俺の優しさが理解出来ない大切にしてやってんの。日頃から分かりやすいくらい露骨に誘惑してくれてるけど自分が何されるか分かってる泣きを見るのはアンタなのに何でそんなことが出来るかな。分かってないからそんな簡単に襲えば良いだなんて口に出来るんだよ馬鹿だよなあ。どうせ経験も無いくせに何で強気でいられるか不思議でならないね。付き合いたいだの襲って良いだの言いたいならせめてその辺りをきちんと分かった上で言いなよ。年上ぶりたい気持ちが分からないでもないけど所詮はおこちゃまなんだからもっとしっかりと考えな。まあアンタには一生かかっても分からないだろうからこれからも友達でいようよ。結局それが一番安全だし、俺もアンタに嫌われないで済むならそうしたいしね。あ、だからって余所見したら二度殺す」
    「うぜー」

    今日までに同じようなやり取りを何度もしているから腹は立たず、こんな時だけ饒舌に喋る水戸を余裕たっぷりに笑ってやった。頑なに付き合うのは嫌だと拒否しているが、それを一瞬で覆してやる。散々馬鹿にされたが俺だってコイツを仕留める為に雑誌だテレビだと世の若者がどのように恋愛をしているのか学んだつもりだ。その得た情報の中から一つ、確実に彼氏に効く言葉というものを早速試してやる。

    「まあ聞けって。すげえ良い話があるんだ」
    「なに、絶対ろくな話じゃないよ」

    体を捩じり、少し強引に背後の水戸の首へ右腕を回して抱き寄せるようお互いの顔を近付けた。この時点で水戸は俺を警戒し、今にも舌打ちをしそうなほど不機嫌な表情をしている。だから俺は警戒を解くようあえて笑顔を作り、こう言った。

    「俺、今日安全日」

    それ以降、俺の記憶は無い。
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