Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    horizon1222

    @horizon1222

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 34

    horizon1222

    ☆quiet follow

    付き合ってないキスディノ/ディノに不器用な甘え方をするキース

    『よいやみとぬくもり』

     その日会ったキースは、とにかく様子がおかしかった。

     昼頃唐突に、『今晩メシいかねぇ?』
    なんてメッセージがきたものだから、驚いた。
     ルーキーを卒業して担当が別々になって、一緒にいる時間が減ってからもキースは俺が声をかければ最初こそ渋るものの、なんだかんだで結構な割合で食事や遊びの誘いには乗ってきてくれる。その代わりというか、自分から誘ってくることはあまりない。「面倒くさ」が半分口癖になっているようなものなので、まあ、そういう性分なんだろうと思う。
     随分急だな、と思ったものの、たまたまぽっかり予定が空いたんだろうと思ってOKしたまではよかった。
     待ち合わせ場所に現れたキースになんか変だな、と違和感をもったのは、本当に根拠も何もないただの勘だった。食事をするうちに、どんどんその違和感は強くなって、お店を出る頃には直感は確信に変わった。
     初めは体調が悪いのかと思ったけど、そういうわけじゃなさそうだった。キースは元々俺みたいににぎやかなタイプじゃないけど、今日はどこか上の空というか、時々考え込むように、黙りこくっている。
     何か俺に怒っているのかとも考えたけど、でもそれなら俺に何か言うだろうし。キースは面倒くさがりだから、言わずに察して欲しいなんて面倒くさいことするぐらいならきっと距離をとる。
     つまり、不調なんだけど、元気がないんだけど、でも俺といたい。そういう気分なんだと結論を出した。
     だから――断れなかった。
     「俺の部屋、来るだろ」
     本当は明日も朝からパトロールだから、今日のうちにタワーに帰るつもりだったのに。飼い主が帰ってこなくて元気の無い犬みたいに、どことなくしょんぼりした空気を漂わせているキースを放っておけなかった。
     表面上は何にもない風を取り繕っているようだったけど、お店を出たあたりからそれを隠さなくなって――いや、隠せなくなったのかも。俺には隠しても無駄だと思ったのかもしれない。とにかく、キースの部屋に着いた頃にはすっかり俺達の間の空気は冷えきっていた。



     達した余韻で体がぶるりと震える。呼吸を整えていると、動きを止めていたキースが声をかけてきた。
     「おいディノ、大丈夫か?」
     こくこくと頷く。待ってろ、とベッドから離れると、水を持ってきてくれた。ペットボトルに口をつけて、半分ほど一気に飲む。ふうふうと飲んだ水を体に行き渡らせるように休んでいると、手の中のボトルを取ったキースが残りの半分を飲み干した。
     「俺ばっかりごめん。キースまだだよな。続き、しよ」
     挿れる前に一回、貫かれて一回、俺はイッてしまったけど、キースはまだ一度も出してないはず。部屋に着いてすぐ、鞄を置くのもそこそこに始めてしまったから溜まっているのだと思ってたけど、どうにも違うらしい。
     キースの腕をとって、少しねだるように言ってみたのだけど、しばらく黙っていたかと思ったら、ポツリとつぶやくように返事した。
     「……まあ、もう遅いし。このまま寝ようぜ」
     「えっでも……」
     「お前明日早いんだろ。付き合わせて悪かったな」
     部屋の灯りは、ベッドサイドのルームライトだけで薄暗い。おまけに逆光になっていて、キースがどんな顔をしてるのかわからなかった。
     「そう……?」
     キースがそうしたいなら、それが正解なんだろうか。シャワー浴びてくる、そう言ってバスルームへ向かうキースを見送った。
     身体はすっきりしたけど、心はどうにもモヤモヤしてしまって、枕へ突っ伏した。物の少ない生活感のない部屋の中で、ベッドだけキースの匂いがする。不思議な感じだ。
     キースの感情が、そこにあるという気配だけはあるのに見えない。触れられない。



     シャワーから戻ってくると、キースはもうベッドに横になっていた。俺が戻ってきたのを見て、端によってスペースを作ってくれる。家具を揃える時、ベッドは大きめのものにしたって言ってたけど、俺達二人はそこそこ上背があるからぴったりくっつかないと少し狭い。
     薄暗い灯りを更に落とすと、部屋の中は本当に僅かに物の輪郭が見える程度になってしまった。
     「…………」
     仰向けに寝ていたキースが、寝返りを打って俺に背中を向けてしまった。無性にさみしくなって、広い背中に少しだけ頭をくっつける。元々そうベタベタするタイプじゃないけど、普段ならした後はベッドでおしゃべりしたり、少しくっついたりとか、そういうスキンシップもするのに。
     「……なんか、疲れてるのか?辛いことでもあった?」
     聞かない方がいいかな、ギリギリまで迷ったけど、結局我慢しきれず聞いてしまった。沈黙がしばらく続いて、「ん」という否定とも肯定ともとれないような返事が返ってくる。
     「そっかぁ」
     何があったんだ?大変だな、元気だして。
     いつもなら自然と口をついて出るような言葉が、全く出てこない。キースがそれを必要としてないのがわかるから。何があったのかもわからないのに、上辺だけの言葉で慰めても意味は無い気がした。
     それでも。
     「キース、まだ起きてる……?こっち向いて」
     会話が途切れて結構な時間が経っていたけど、俺は意を決して静かに声をかけた。まだ寝ていないんじゃないかなと思っていたけど、素直に応じてくれるかどうかは自信がない。寝たフリするなら、それもそれでいいと思った。
     「…………」
     ややあって、ごろり、と寝返りを打ってキースがこちらを向く。俯いているし薄暗いから、表情はわからない。ゆっくり、手を伸ばしてみる。頬に触れるとぴくりと反応したが、俺が髪を梳かすように頭を撫でると、されるがままになっていた。
     長い前髪を、少しだけかきあげるようにすれば、伏せたままの目が現れた。相変わらず目線が合わなくて、それが少しだけ不安になる。けど、本当に俺を突き放したいならこんな風に一緒に寝てはくれないと思うから、そばにいてほしいんだろうと思い直す。
     キースはどうしたいのかな。俺は、キースに何をしてやれるんだろう。
     辛いなら、何か心に抱えているなら、楽にしてやりたい。せっかく隣にいるんだから。
     考える前にもう体が動いて、俺は腕を伸ばしてキースの体を抱きしめていた。



     唐突に思い出した。夜に、真っ暗な部屋で何の音もしなくて、不安が募って泣いてしまった時のこと。怖かったわねぇ、そう言っておばあちゃんは俺を抱きしめて眠ってくれた。あれは、引き取られてすぐのことだっただろうか。
     それからしばらく、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に寝ていた。しわしわの手で撫でられて、おじいちゃんのいびきが聞こえると不思議と心が安らいでよく眠れた。
     灯りを落とした部屋。寝る前の空気はゆったりとしていて、温かかった。静かだけどそこに人の気配があることが俺にとっての幸せの形だった。



     「……悪い」
     されるがままになっていたキースが、俺の首元に頭を埋めたまま、絞り出すようにつぶやいた。
     「何にも謝ることないよ」
     返事は返ってこなかったけど、恐る恐る、という感じでキースの腕が俺の背中に回った。身じろぎして触れたつま先がびっくりするほど冷たい。俺の首筋に触れた指はひんやりしていて熱のこもった体には少し気持ちよかったけど、キースに俺の熱を分け与えるように優しくぎゅっと抱きしめる。頭を撫でて、髪に鼻先を埋めると、シャワーを浴びたばかりのくせ毛はふわふわでほんの少しだけいつもの煙草の匂いがした。
     「大丈夫」
     こうする理由も、キースの辛さも、何も根拠はなかったけど、自然と口から言葉がこぼれた。俺自身に言い聞かせるように、ささやくように。何にもなくたって、何かあったって、大丈夫。そんな気持ちを込める。
     俺が隣にいたら少しはキースは安心できるかな。何もできなくても許してくれるならそばにいたいよ。
     しばらくそうしていたけど、そのうち抱きしめていたキースの体がゆっくりと上下しだした。規則正しい深い呼吸と、聞こえてくる僅かな寝息が俺を眠りの世界に誘ってくる。
     すり、とキースの体に身を寄せる。触れた体は、さっきの冷たさが嘘のようにあったかくて、俺は安らかな気持ちで目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🙏🙏😭💖👏👏😭💕🙏😭👏🙏🙏🙏💖😭🙏💖💖💖👏☺👏💞☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺😭☺🙏💞❤🙏😭👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    horizon1222

    DONEモブ女は見た!!新婚さんなあのヒーロー達!!
    という感じの(どんな感じ?)薄~いカプ未満の話です。一応キスディノ
    ディノにお迎えにきてほしくなって書いたよろよろとモノレールに乗り込み、座席に座ったところで私はようやく一息をついた。
    月末。金曜日。トドメに怒涛の繁忙期。しかしなんとか積み上がった仕事にケリをつけられた。明日の休みはもう何がなんでも絶対に昼まで寝るぞ、そんな意識で最後の力を振り絞りなんとか帰路についている。
    (あ~色々溜まってる……)
    スマホのディスプレイに表示されているメッセージアプリの通知を機械的に開いてチェックし、しかし私の指はメッセージの返信ボタンではなくSNSのアイコンをタップしていた。エリオス∞チャンネル、HELIOSに所属のヒーロー達が発信している投稿を追う。
    (しばらく見てなかったうちに、投稿増えてるな~)
    推しという程明確に誰かを応援しているわけでないし、それほど熱心に追っているわけではない。それでも強いて言うなら、ウエストセクター担当の研修チーム箱推し。イエローウエストは学生の頃しょっちゅう遊びに行っていた街だからという、浅い身内贔屓だ。ウエストセクターのメンター二人は私と同い年で、ヒーローとしてデビューした頃から見知っていたからなんとなく親近感があった。
    4426

    recommended works