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    horizon1222

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    horizon1222

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    ようやく体の関係をもったキスディノがもだもだする話

    三度目の愛のかたち 「明日、オレんち泊まってくだろ」
     その何気ない会話に全くおかしなところはないはずなのに、振り向いたディノはぴたりと動きを止めてキースの方を見た。一瞬の、間。
    「え、オレなんかおかしいこと言ったか?」
     明らかにディノの反応に戸惑うキースが問いかければ、ディノは目をぱちぱちとさせた。しばらく逡巡しているような素振りだったが、返してきたのが質問の答えでなく質問返しで、その上あまりにも直接的な内容だったので、今度はキースが面食らった。
    「それは……明日はする、ってこと?」
     思わず、ディノの顔をまじまじと見る。キースは自分のベッドで寝そべり、ディノはメンター部屋に入ってきて自分のスペースに腰を落ち着けようとしていた矢先のことだった。多少距離があるせいか表情から何も読み取れない。キースはしばらく、あーとかうーとか、言葉を詰まらせていたが、体を起こして、ちょいちょいとディノを手招きした。ディノは素直にトコトコとキースの元へやってくる。
     ベッドに座ったキースの正面に立ったディノの目を見て、手を握りながら話す。
    「……そうだな、抱きたい。お前の都合が悪くないならだけど」
     我ながら締まらない物言いになってしまったとは思ったが、どう言えばよかったのだろうか。
    「わかった」
     こくりと頷くディノは、やはりなんとも言えない顔をしていた。キースとしては一世一代の誘い文句……とはもちろん言わないが、それなりに勇気を出したお誘いだったのだが、芳しい反応とは言えなかった。
     各々自分のベッドに入って灯りを消しても、キースはモヤモヤしていた。あの反応はなんだ。そもそも、明日はするのかなんて発言、いくなんでもムードに欠ける発言ではないか、とか。
    (でもまあ、しょうがねえのかな……)
     まだ二人がお付き合いを始めて三ヶ月、もし明日セックスするとしたら、ようやく三回目の愛の営みになるのだから。



     セックスしたい、と言い出したのはディノの方だった。
     キースとしては、そこはどうでもよくはなかったが急ぐつもりも毛頭なかった。死んだはずのディノを取り戻して、同じセクターで並んでヒーローをやっている。そこから気持ちが通じあっていわゆる恋人同士という関係になれるなんて、アカデミー時代のキースが聞いたら卒倒しそうな僥倖だった。これ以上何を望むものがあるというのか。
     キースとて健全な二十代の男、もちろん性欲がないわけではないが、ディノとは知り合ってもう何年も経っているし、待とうと思えば何年でも待てた。急ぐ理由もないし、恋人になったからと言って無理に事を進めようとも思っていなかったのだ。なので、ディノの申し出には驚かされた。
     元々人懐っこくてスキンシップにも抵抗のないディノだったから、キスするまでは早かった。部屋でディノの片付けを手伝うついでにじゃれあいが始まって、ベッドになだれ込んだ拍子に顔が近くなって、思わずキスした。一瞬驚いたような顔をした後に、はにかむように嬉しそうに笑ったのが可愛くてしょうがなくて、すぐまたキスしたのを覚えている。
     しかし、セックスとなると話は別だ。キースとしては服を脱いで触り合うだけでも充分だと思ったが、ディノはそうではなかったらしい。更に深い繋がりを求めるディノの要望に応える形で、キースがディノを抱いた。もう三週間は経つだろうか。
     何せディノに全く経験がなかったから大変だった。男はもちろん女とも肌を重ねた経験のなかったディノは、初めての散歩に繰り出す犬みたいに我を失ってすっかり落ち着きをなくしていたので、キースがリードして宥めてすかしてなんとか初夜は終わった。
     それから程なく二回目を済ませて、ようやくお互い勝手がわかってきて、純粋に相手と快感を追求できる段階に入ったと同時に、する事に対してそこまで構えなくていい、とキースは認識していたのだったが。
    (なんだよあの反応。嫌なら嫌って言ってくれ~)
     ディノに限って本心を隠してイヤイヤ付き合っているということはないと言えるだろうが、たとえばわかりやすく恥じらいを見せるとか、期待するような顔を見せるとか、そういう反応をキースは予想していたのに。むしろあれは、引いているとかそういう部類の表情ではなかっただろうか。したいとディノが言ったからキースは応えたのに。こちらがそういう素振りを見せるとするりと逃げていくなんて生殺しだろ、そう悶々としながらキースは眠りについた。



     果たしてどうなることかとキースは内心ドキドキしていたが、ディノは結局次の晩キースの部屋へやってきた。けれども、外で食事をしていた時は機嫌良さそうにピザを頬張っていたのに、店を出て並んで歩く頃には口数が次第に減り、ついにはキースの部屋へ来た時にはすっかり黙りこくってしまった。キースが声をかければ応えはするが、明らかに常と異なる様子で、緊張しているのが傍から見てわかった。
     これが、キースが期待していたような緊張だったらどれだけよかっただろうか。付き合い始めて間もない恋人が今晩、部屋に行ったら抱くと宣言されて、意識していること自体は普通だと思うし、これからの甘い時間を期待してそわそわと落ち着きを無くす恋人を隣で見ているのは、男として悪い気はしないとキースは思う。
     けれども、あの妙な間が、あの微妙な表情がキースを曇らせた。正直、ディノが何を考えてどんな思いで緊張しているのかがわからない。昨日寝る時は色良い返事をくれないディノへの不満がないこともなかったが、そんなこと程度でどうこうなる程、この想いは浅いものではないのだ。
     部屋について早々にシャワー借りていい? とバスルームへ消えていったディノを見送り、キースは一人悶々と考えていた。いや、シャワーはいいのだ。するにしてもしないにしても、寝るまでには必要なものだし。シャワーを浴びたからといってする合図というわけでもない。ディノが戻ってきた頃には、キースは心を決めていた。
    「なあ、無理しなくていいって」
    「え?」
     濡れていつものハネが抑えられ、ぺったりとした髪を拭くディノを眺めながら、キースはついに口を開いた。
    「昨日はああ言ったけど、別に泊まるなら絶対しなきゃいけないもんでもないし」
    「何言ってるんだよキース、しようよ」
     キースの内心の葛藤など知る由もないディノは、事も無げに言い放った。けれど、その顔が、仕草が、どこかぎこちない。
    「恋人になったら絶対しないといけないってモンでもないんだし」
    「でもキースはしたいんだろ?」
    「いやそりゃ、したいかしたくないかって言ったらしたいけどよ……」
     そんなお前抱けるかよ、という言葉は胸の奥に留めておいた。いらぬ誤解を受けてはたまらない。
     昨日と同様に、ディノをベッドへ呼び寄せる。今度は隣に座らせて、髪の毛を拭いてやればディノはされるがままに従った。
    「オレとお前は、ダチだった期間の方が長いし……してみたら、想像と違ったとか色々あんだろ。お前はオレに気ぃつかって言い出せねぇのかもしれないけど、オレもその気のない相手に無理強いするような趣味はないんだって」
    「……でも」
     ディノの髪を乾かしてやるようになったのは、こういう関係になってからだ。ずっと触れたかった、甘い色のまっすぐな髪。丁寧にドライヤーをかけて、指通りのよい髪に熱を通していく。
    「セックスするだけが恋人じゃないだろ。オレは、お前の特別になれて、こうやって二人で過ごせるだけで結構満足なんだよ」
     キースがドライヤーのスイッチを切るまで、ディノは押し黙ったままだった。目を見て話すのが恥ずかしくて、つい照れ隠ししてしまったが伝わっただろうか、とキースはディノが口を開くのをしばし待った。
    「……キースは、俺みたいなのは嫌かもしれないけど俺はしたいよ」
     背を向けたまま話すディノから出てきた言葉が、どこか拗ねたような色を持っていたのでキースは呆れた。
    「嘘つけ。お前、明らかにその気ねえだろ。オレに気ぃつかってるのか意地張ってんのか知らねぇけど無理すんなよ」
    「その気ってなに?」
    「いやだから、セックスしたくないんだろ」
    「違うよ! 俺はキースとセックスしたい!ただ、その……」
     その? と続きを促せば、ディノはもじもじと言い淀んでいたが、覚悟を決めたように、キースの方へ向き直った。
    「俺、その……俺も、キースに触りたくて……」
    「へ?」
    「え?」
     キースの間抜けな声に、同じく面食らったようなディノの声が続いた。まるでとんでもないルール違反を侵したかのようにいうディノの言葉があまりになんでもないことだったので、拍子抜けしたのはキースの方だというのに。
    「……いいんじゃねぇの?」
    「えっいいの」
    「え、なんかダメなのか?」
    「だって、キース初めてした時に言っただろ!」
    「は オレそんなこと言ったっけか?」
    「言った!」
     言った言わないの水掛け論が始まり、キースは必死に思考を辿った。初めての夜はとにかく大変だったという印象しかないが、自分はあの時、なんと言ってしまったのか?



    「あの、俺! 俺、もう脱いだ方がいいよね」
    「おう、落ち着けよディノ」
     ネクタイを抜き、シャツのボタンを外した途中でベルトに手をかけたディノの顔は、真っ赤だった。傍目にも混乱しているのが丸わかりで、そのあまりに落ち着きのない姿がむしろ気の毒になり、キースは初心な様子にそそられるどころかディノの興奮を落ち着かせる羽目になってしまっていた。
    「あ、その、ローションとか、いるよね? どのくらい必要なのかな、そうだ! それよりまずゴムを」
    「うん、とりあえず落ち着け」
    「初めては後ろからがいいって言うけど、俺もう後ろ向けばいい 最初はやっぱ顔が見えた方がいいのかな?」
     矢継ぎ早に質問を繰り出し、一つ解決する前にまた次の質問をするディノは完全に混乱しきっていた。落ち着け、と何回繰り返したかわからない。
     服を脱がされてベッドに寝かされても尚、そわそわとしているディノは、目が泳ぎ所在なさげだった。緊張と興奮と、おそらく不安がないまぜになってパニックになっているのだろう。このままではできるものもできない。キースは別に今日でなくてもとは思ったが、したいと言った側のディノが指折り数えて待っていたのを知っていたので、もし自分のせいでできなかったとなったらひどく落ち込むことは目に見えていた。
     それに、なんだかんだでキースもできるものならしたかった。目の前でずっと好きだった相手が裸になってベッドに横たわっている、その状況で一体我慢できる男が何人いようか。
     キースは軽く息を吸うと、覚悟を決めた。
    「お前は何もせずどーんと横になってればいいから! 全部オレに任せとけ、な!」



    「……あ」
     あれか、と言いたげな声をあげたキースに、おずおずとディノは続けた。
    「俺、その……初めてだったし、何にも知らなかったから、キースに全部お任せしちゃったけど、この間した時……」
     そこでまた声を詰まらせるディノに、続けて、と目で促す。ディノが視線を左右に泳がせて最後に眉尻を下げて困ったような顔でこちらを見たその悩ましげな表情に、キースは不覚にもグッときた。
    「俺ももっとキースがしてくれるみたいに、キースに触りたいって思っちゃったんだよね……」
    「オレが横になって何もせずにしろって言ったからダメだと思ってたって?」
    「そう。キースは経験あるし、俺が知らないだけで、なんかそういうマナーとか暗黙の了解とかあるのかなって」
     どんなマナーだ、とツッコミたかったが、ディノよりは経験のあるキースが言い聞かせたならそう思い込んでもしょうがないのかもしれない。同性ではあるが、いわゆる女性と同じポジションでディノは抱かれているわけだし、そういうものと勘違いすることもあったかもしれなかった。
    「あとは、その……キースの好みじゃないかも、って。受け身でされるがままになってる方がそそるのかなって」
    「あーまあ……いや、そればっかってことは」
     たしかに、自分がされるよりはした方がキースの性には合っている。しかし、冷静に性的趣味について言語化されるのは恥ずかしいものがあり、適当にキースは言葉を濁したのだが。
    「え、でも前にキースが見てたやつ、巨乳の子がひたすら胸を責められるやつで」
    「やめろやめろ。いつの時代の話だよ」
     まだディノへの気持ちを自覚してなかった頃の話を持ち出されたので、キースは慌てた。恋人相手でなくても自分が使っていたオカズについて言及されるなんて赤面ものだ。
    「それで、オレにどう切り出していいか迷ってたってことか?」
     話題を元に戻せば、ディノはこくんと頷いた。その仕草がどこかいとけなくて、アラサーとは思えない。
    「バカだなお前」
     キースの言葉に、むっとしたような顔を上げたディノは、そのまますくい上げるように顎をキースに捉えられ、キスされた。
    「バカでどうしようもなく可愛いな」
    「え、ちょっとやめろよキース」
     ちゅ、ちゅ、と何度か顔中にキスされて、挙句の果てにぎゅうぎゅう抱きしめてくるものだから、ディノは慌てたように声を上げた。こんなのはキースらしくない。
    「あのな、やり方に正解なんてないんだからめんどくせえこと考えなくていいんだよ。大体、正解があったってオレとお前が満足できないなら意味ないだろ」
    「…………はい」
    「さっきも言ったけど、別にセックスが全てじゃないし、お前がそうやってオレのこと考えてくれただけでオレは充分なの」
    「……本当に?」
    「ん?」
     体を離して向き直る。ディノは、またあの表情をしていた。今ならわかる。これは、どう話したらわかってもらえるか、とか、キースに嫌われたらどうしよう、とか考えている顔だ。しょうがねえな、とキースは胸の内でつぶやいた。
    「お前がなんでもなさそうな顔してオレに触りたいとかムラムラしてたって聞けてオレは結構嬉しいけど」
    「! キース、言い方」
    「ん? 違った?」
     ディノの手をとって、見せつけるように指を舐める。指先を含んで、軽く歯を立てれば、ディノがごくりと唾を飲み込んだのがわかった。
    「違わ、ないです……」
     赤くなって、困ったような顔でこちらを見てくるディノに、キースは笑った。そんなことくらいで揺らぐ気持ちではないことを、これからたっぷり教えてやろう。
     三度目は、いや、三度目だからこそ? それまでに知らなかった顔が見えてくる。二人の新しい愛のかたちだ。
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    horizon1222

    DONEモブ女は見た!!新婚さんなあのヒーロー達!!
    という感じの(どんな感じ?)薄~いカプ未満の話です。一応キスディノ
    ディノにお迎えにきてほしくなって書いたよろよろとモノレールに乗り込み、座席に座ったところで私はようやく一息をついた。
    月末。金曜日。トドメに怒涛の繁忙期。しかしなんとか積み上がった仕事にケリをつけられた。明日の休みはもう何がなんでも絶対に昼まで寝るぞ、そんな意識で最後の力を振り絞りなんとか帰路についている。
    (あ~色々溜まってる……)
    スマホのディスプレイに表示されているメッセージアプリの通知を機械的に開いてチェックし、しかし私の指はメッセージの返信ボタンではなくSNSのアイコンをタップしていた。エリオス∞チャンネル、HELIOSに所属のヒーロー達が発信している投稿を追う。
    (しばらく見てなかったうちに、投稿増えてるな~)
    推しという程明確に誰かを応援しているわけでないし、それほど熱心に追っているわけではない。それでも強いて言うなら、ウエストセクター担当の研修チーム箱推し。イエローウエストは学生の頃しょっちゅう遊びに行っていた街だからという、浅い身内贔屓だ。ウエストセクターのメンター二人は私と同い年で、ヒーローとしてデビューした頃から見知っていたからなんとなく親近感があった。
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