蜜色の休日とある昼下がり。リゾットとプロシュートは揃ってふたりのお気に入りのバールへと足を運んでいた。目的は季節限定のドルチェだった。
これは付き合うことになってから知ったことだが、リゾットは甘いものに目がない。徹夜が続いた日にヌテラの瓶を抱えてひたすらそれを舐め続けているのを見た時は驚いたものだ。
そして、今プロシュートの目の前にはたくさんのドルチェがテーブルの上に所狭しと並んでいる。これを同じく目の前にいる恋人がほぼひとりで食べ尽くすのだ。
「オメーが甘いモンが好きなのは知ってるけど見てるだけで胸焼けしそうだぜ」
うげぇ、と声を上げプロシュートはエスプレッソに口をつけた。するとリゾットはキョトンとした顔でこちらを見遣る。
「このティラミスなんかはほろ苦さがちょうど良くてとても美味いぞ。お前も食うか?」
リゾットはそう言いながらスッとティラミスの皿を差し出した。そうじゃあねえ!と思いながらプロシュートは首を振る。
「要らねえ。今日はこいつらみんな食うのを楽しみにしてたんだろ?オメーが全部食え」
「?そうか?では遠慮なく頂こう」
そう言うと再びドルチェと向き合ってもくもくと食べ続けるリゾット。そんな彼を見て、およそ大の男に対して感じることがない感想が湧き出て来る。
(こんな光景がかわいい、なんてな…他の奴に見せたくない気持ちまで湧いてきやがるなんて末期だ)
周囲の女性が顔を赤らめてリゾットの様子を見ているのにさっきから気付いていて、それがなんだか気に入らない。独占欲というやつだ。ドルチェに夢中になる、こんなかわいい恋人を誰にも見せたくないという恋の病。見せたくないのなら、テイクアウトしたドルチェを家で食べたり、はたまた自分が作ったドルチェを食わせればいいか…なんて考えているとリゾットから声をかけられた。
「なにか、考え事をしているのか?ボーッとしているように見受けられるが」
そんなに呆けて見えたのだろうか。プロシュートは首を振るとすぐに返事をした。
「いや、なんでもねえ。それよりそれそんな美味えのか?さっきからフォークが止まらねえな」
ドルチェを指して言うと、リゾットは柔らかく笑む。
「お前がいるからだよプロシュート。お前がいると、なんでも美味しく感じる」
そう言った顔が、本当に幸せそうで、こちらを見つめる眼差しが優しくて。プロシュートは思わず顔を赤らめた。
「そ、そうかよ…美味えならよかったぜ」
いつもの雄弁に語る様子はどこへやら、それだけしか返せなかった。その間もリゾットはドルチェをつついている。
ドルチェも気付けば残り僅かで、食べたら次はどこへデートに繰り出そうかと算段をつけながらリゾットは残った甘味に舌鼓を打っていた。