おつかい.
「ねぇケーキどれが美味しかった?」
私が飲み物を注文している間ショーケースの前でしばらく動かなかったウンジオンニが聞いてきた。
「チーズテリーヌとカップケーキ、チョコブラウニーどれも私は美味しかったです……シフォンケーキは食べたことないけど、多分美味しいかと」
何回か訪れた事務所近くのカフェ、残っている自慢の自家製ケーキはどれも味わったことがあった。
「多分なんだ?」
「いつも売り切れなので……」
ケーキお取りしますか?と飲み物をレジで入力していた店員さんから声がかかる。
平日の夜で閑散としているけどそろそろ注文したほうが良さそうだ。
「シフォンケーキ1つ、店内で食べます」
「え」
「一緒に食べよ」
ね、とスマートに会計まで済ませてしまった先輩の背中を追った。
サバイバル番組で共演中の私たちがダンスユニットを組むことになったのはほんの数日前。
私の事務所の練習室で合同練習中、モニカ先生はとっくに帰ったけどまだまだ夜は長そうで休憩のおつかいに出てきた。
「ん!ふわふわだ」
オンニがフォークを入れた反対側から私もケーキをつつく。
アイシングがシャリッとしててスポンジの口溶けと相まって、自然と頬が緩むのを感じた。
「みんなにはおみやげ何か買って帰ろ?」
お店が混んでたって言えば平気だよとウィンクをされて、嬉しくってくすぐったくて鼻の奥がツンとなる。
ダンスのキーとなる振付が私のソロになることが決まり、追いつめられて余裕がなくなっていた。
それはオンニにはバレバレで優しく気遣ってくれたのかもしれない。
残りのケーキを急いでたいらげた。
「ウンニ!ごちそうさまでひゅ!」
店をあとにして、お礼を言うつもりがスタートで名前を噛んだものだからもうしどろもどろで、めちゃくちゃ笑われてる。
「これからそう呼んでね」
イヴだけと空いてる手が私の腕に絡まってくる。
おみやげは買い忘れそうだし、顔は熱いし、噛んだ舌が痛い。