364日.
妹として年下として可愛がられるのも最初は嬉しかった。でも歳を重ねるごとにオンニとあなたを呼ぶひとが増えて、わたしが唯一であることがなくなった。もし年上だったらと妄想してしまう、年齢が上というだけでユジンから敬愛を向けられるのが正直羨ましかった。
「ウォニョン〜」
お誕生日おめでとうとユジンが扉から顔を覗かせる。今日はわたしの19歳の誕生日で、普段はもっと早く寝るのに起きて待っていた。パジャマには着替えないで、でもお洒落すぎないようにあくまで部屋着ですよなんて顔をして。
「ありがとう」
「どういたしまして」
部屋に招き入れて礼を言うとくしゃっと目が細くなる笑い方をされた。8月31日を迎えるとわたしたちは一日だけ同い年になる、敬語を取り払って友達として振る舞う。初めて出逢ったころから前のグループから続けている戯れだった。
わたしの誕生日からユジンの誕生日へと日付を跨ぐ形でメンバーたちはお祝いをしてくれる予定で。だから今だけはふたりきりで、あなたを独り占めできる時間。部屋のベッドに難なく腰掛けられて、意識してるのはわたしだけって思い知らされる。
「飲むでしょ?」
「……うん」
小脇に抱えた焼酎のボトルとショットグラスがふたつ、ユジンがウィンクをして誘うからその軽薄さに目眩がした。一年先に、いえ364日先に飲酒できるようになって酔って帰宅する姿を何度もみた。誰に触れたの、誰の名前を呼んだの、問い詰めたくてもわたしには何の権利もない。
「初めて飲む相手になりたかったんだよね」
調子のいいことを言ってわたしにショットグラスを握らせる。わたしだってあなたの初めてになりたかった、いつだってそう。でもひとつ先に大人になってくのをただ指をくわえてみていることしか出来なかった。
「みてて」
焼酎の瓶を捻ったと思ったら小気味いい音がして蓋が開いた。手慣れた指先にまた胸がひどく傷んだ、ユジンはわたしを喜ばせたくて見せたその気持ちだけを受け取ってあとは知らないふり。手にしたグラスに注がれた透明な液体を見つめた。
「おめでとう」
乾杯とユジンがグラスを合わせてきて、自分が今どんな顔をしているのか鏡がなくても分かる。口をつけて液体をグッと飲み干した。身体が顔が熱くなる、不思議と不味いとは思わなかった。
「おおイケるね」
「美味しいかは分からないよ」
感嘆の声をあげたユジンがわたしが飲む様を見ていたようで、追いかけるようにグラスを空にした。上がった顎から首のラインが色っぽいと思った。どうしよう、ふたりで飲むのがこんなにやらしいなんて。
「私より強いかもね」
「まだ一杯だし」
それもそうだと声をあげて笑うユジン、笑い上戸なのかな大好きな笑顔ずっとみてたい。二杯目は溢れそうなほど注ぐからわたしも吹き出してふたりで笑い合った。乾杯してさっきよりも勢いよくあおる。口の端から溢れた液体を気にする余裕なんてなかった。
「ほら濡れちゃう」
親指で唇を拭われて喉の奥を鳴らして笑われる。少し酔ったかもなんて誤魔化して視線を外したところで、全部見透かされてるようだった。唐突に触れてわたしの心を全部攫っていく。顔が熱くてあなたのせいなのに、お酒のせいだと思いたい。
「赤いし熱いけど……平気?」
お水持ってこようかと立とうとするから服を掴んだ。いつもはびっくりするぐらい鈍感なのに、察しがよくてまた横に腰掛けてくれる。さっきよりも距離が近くて肩が触れた。
「へい、きじゃない……」
「うん」
ユジンがグラスを手から奪ってサイドボードへと置く。こんなことするなんて自分じゃないと思った。成人したわたしは何をするにも自由で、責任がともなう。
「熱くて……ぐらぐらする」
「横になって」
身体を支えるようにゆっくりベッドへと横にされる。心配する表情をみて良心が痛む、酔ったフリをしてあなたに甘えるわたしを許して。
「ユジナ……」
言い訳を手に入れてあなたを求める覚悟が生まれた。