痛いの痛いの.
あなたが望むならいつだってこの身を捧げます。覚悟なんてものじゃない、私の中の理だから。そんなことをしないでくれとあなたを困らせることは分かりきってるのに。
リビングに通じるドアを開けて少しだけ驚いた。静かな宿舎内には自分だけだと、ソファで眠りこける姿を見るまでは思っていたから。コーヒーが飲みたくて淹れにきたけど、起こしたくなくて断念することにした。
足音を消して、呼吸も静かにして近付いてみる。まつげが頬に落とす影を認識できるほど近寄ると今度は心臓がうるさい。耳がいいリリーに聞こえてしまわないか、そわそわしてしまう。
「ん……」
身じろいだリリーの薄く開いた唇から息が漏れる。オ・へウォンしっかりしてくれ、頼むからそんな気持ちを抱かないで。不埒な感情に支配されたくなくて唇を噛んだ、不敬罪が現存するなら私はとっくに牢屋行きだ。
「……見過ぎじゃない?」
片目を開けたリリーと目が合って、後ろへと飛び退いた。ソファに合わせたローテーブルに肘をぶつけてしまい、声にならない呻きをあげる。
「へウォンッ!」
ソファから床にいた私のもとへと降りてきてくれた。身体を丸めた私の背中をリリーがさすってくれる。大丈夫?と聞かれても布越しの手の感触を探りたくて、スウェットを部屋着を着ている自分を呪った。
「大丈夫です、もう痛くないですし」
ズキズキと鈍い痛みは自制範囲内なのに、あなたへの気持ちはとっくにコントロール不能で。
「みせて」
腕を掴まれて袖を捲られる、肘の上まで上がると止まった。私からはどうなってるか見にくい肘を掴んで見ている、てか指ちょっと痛いです。
「赤くなってる」
「ぶつけましたからね、でも本当大丈夫なんで」
へへと笑うとリリーの顔が私の肘に近づいて、キスされた。と思う。
「kiss it better」
固まった私の頭をくしゃくしゃと撫でて、そう言って笑うリリーが眩しくて。小さい子にするようなおまじないをされたことが嬉しくて、悔しい。
「……治った」
「こんなので治ったら病院がつぶれる」
痛みが続くようならちゃんと診てもらってねと人差し指を立てたリリーに念を押された。ズルい。