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    ゆりた

    rps小説の方

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    ゆりた

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    rps/🐸🐢

    カラメルソース.


    「私は仲良くなるまで時間がかかるから」

    牽制の意味もあったと思う、距離を置かないと危険な気がした。ひとつ下のウンジにそう告げて自分の心の安寧を優先させた。ゆっくりとシロップが滲み込むスポンジケーキのように、乾いた私に愛情を注がないで欲しい。太陽や水のようにあなたなしでは生きていけない身体になりたくなかった。



    「オンニ~これであってます?」

    眉を下げて不安そうなウンジがマグカップを持ってスプーンでグチャグチャと中身をかき混ぜている。全く料理をしないくせに急に甘いものが食べたいと言い出されて今に至る。

    「合ってるよ、よく混ぜないとダマになる」

    「ダメになるのはこまる!」

    ダメとは言ってないのに今度は頬を膨らませて眉を寄せ始める、コロコロ変わる表情がみていて飽きない。牛乳と卵と砂糖を混ぜて、ウンジでも失敗しないようにプリンを作っている。決して豊かではない冷蔵庫の中身と相談してそうなった。

    「誕生日はケーキにしましょうね」

    ターンテーブルの上にマグカップを置いてレンジをセットしているとウンジの声が降ってくる。肩口から覗き込まれていたようで振り返ると距離の近さに少し驚いた。ウンジと出逢ってから1年以上経つけど距離感にはまだ慣れない。

    「自分で作れってこと?」

    「だってお肉はぜったい買うからケーキとお酒どっちに」

    「お酒」

    だよねと敬語を外したウンジが笑う。メンバーのお誕生日をお祝いするためにお金をカンパし合っても、欲しいもの全部は買えない。デビューして二年目を迎えた私たち、先月出したアルバムの成績は良いとは言えなかった。

    オンニたちはもう卒業して今は私たち5人だけの宿舎、今日は私とウンジのふたりきりだった。レッスンやバイト、たまの仕事が入ってないときは毎週末じゃないけどみんな実家に帰っている。その方が経済的だしごはんも食べれる、売れないアイドルはいくつになっても半人前として親たちから扱われた。

    「そういえばウンジも予定あるの?」

    「あ……えっと」

    週末に割りの良いバイトを入れた私は宿舎に残ったけどウンジもそうなのかと尋ねた。おしゃべりなのに歯切れの悪い返事しか返ってこない。

    「……ひとりにしたくなかったんです」

    「私を?ウンジみたいに寂しがり屋じゃないよ」

    意を決したように答えるウンジの意図が分からなくて茶化すように返した。にこにこと笑ってよく褒められる笑顔を浮かべながら、ひとりでいることは好きだし慣れている。

    「オンニひとりだといっぱい考えちゃうでしょ」

    成績のこととか色々とウンジが見つめてくる。つい悪い方に受け取って考え込んでしまう私は目を逸らした。大きな瞳に笑顔の裏まで見透かれそうで、まだ暴かれたくなかった。

    重い空気を割るように電子音が鳴った。逃げ道が出来たとレンジの取手に手を伸ばし、中から取り出したマグカップをテーブルへと置く。

    「熱くないの!?」

    「え、あっ……」

    ウンジに指摘されて手を離す、手の平が赤くなっていてじんわり痛い。手首を掴まれてシンクへと連れていかれ水道水で冷やされる。ウンジのパーカーの袖に水が跳ねて濡れていくのが気になった。

    「袖濡れちゃう」

    もう大丈夫だと手を動かせば、空いている腕が身体の後ろから回り込んでくる。シンクとウンジに挟まれて身動きが取れない、手首をもつ指がぎゅうと強くなった。

    「痛くない?」

    「うん……」

    「オンニ大事にしてよ」

    耳元でいつもより低いウンジの声がする、表情が窺えなくて頷くしか出来なかった。水道を止めて手の水気を軽く拭き取られて、そのタオルに冷凍庫から出した保冷剤をくるんで手に巻かれた。

    「痛みを我慢しないでください」

    顔をあげたウンジの困ったような笑顔に胸が痛くなった。締め付けられるような痛み、甘さと切なさを含んで。

    プリンは冷やしてすぐには食べられないことをウンジが嘆くから、カラメルソースを作ってもらうことにした。フライパンで水と砂糖を熱していく。

    「こ、焦げてない?」

    「焦がさないとカラメルにならないから」

    フライパンの柄を握って木べらで液体を広げて煮詰めている。くるくると手を動かしながら真剣な様子のウンジの横顔を眺めた。初めて逢ったときの人懐こそうな笑顔が、いいひとだと話す前から感じたことを思い出す。

    「甘いもの好きだよね」

    挨拶とともに鞄に忍ばせていたチョコレートをウンジがくれたっけ。

    「食べたくなるんですよね」

    「寂しいときとか痛いとき、それこそ辛いときも」

    ふわっと口元が緩んで笑いかけられる、フツフツとフライパンの中が沸き立つ。パーカーの裾を手できゅっと掴んで、火が危ないからゆっくりとウンジの腰に抱きついた。

    「甘いと少し楽になるでしょ」

    甘い砂糖の焦げる匂いが鼻をくすぐる。ほろ苦いものがこみ上げてくるのをウンジの肩口に頭を擦り付けて誤魔化した。



    ※※※※※※



    「焦げちゃう!」

    「焦げてないってば」

    毎年恒例の騒ぎを横目にガラスの花瓶をダイニングテーブルの中央へと置く。テーブルには出前で頼んだ料理がところ狭しと並んでいる。季節のバラを中心に作られた花束、崩すのがもったいないけど活けた。今年はピンクが多めでウンジが選んでくれた、それだけで嬉しくて幸せな気持ちになる。

    「オンニ~」

    「ん、ちょうどいいよ」

    ソースパンを持って近づいてくるウンジの差し出すスプーンを口に含む。苦くて甘いカラメルソースの味が口に広がる。

    冷蔵庫から良く冷えたアルミのプリンカップを取り出す、隣にはウンジの好きなチーズケーキを冷やしてある。誕生日に自分で作るのにはすっかり慣れた。銀色の容器を逆さにして器へと振り落とす、卵の色が濃くて滑らかそうな表面に焦げ茶色の液体を垂らしていく。

    「プリンの下にカラメルソース入ってるやつじゃダメなの?」

    たっぷりのカラメルソースをプリンにかけていると後ろからウンジが抱きしめてくる。こめかみの辺りにキスされて、戯れたくなって身体を捩って抱きしめ返した。

    「ダメ、あったかいのがいいの」

    体温が感じれるほどきつく抱きしめて、胸元に顔を押し付けて擦り寄る。ウンジに作って欲しいからなんてもうとっくに気づかれているような気がした。見上げると顔が近づいてくるのが分かって目を閉じる。

    「……苦い」

    唇をひと舐めされて笑われる。甘いだけじゃないほろ苦さがいいのに、もう少しウンジを感じたくて服を引っ張って背伸びをした。

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