ミスクリスマス.
「チェリョンが好きなのにしなよ」
イェジさんは私の好きを知らないくせに。
クリスマスイブにスケジュールが入ってないのはデビュー以来初めて。年末の授賞式では先輩として後輩グループから挨拶されることも多くなり、皆勤賞もなくなった。
暗証番号を押して解錠音が鳴る。最初の番号は分かりやすすぎて直ぐに変えなよと忠告したっけ、騙されやすいから心配。
「寒かったでしょ?」
「また降ってきそうだよ、これ」
私の来訪を喜んでくれた家主にケーキの箱が入った紙袋を渡す。プレゼントの紙袋まで持っていかれそうだったから、コートと一緒に玄関横のパントリー内へと置かせてもらった。
「わぁ飾り付け大変だったでしょ」
リビングへ抜けるとツリーにガーランド、バルーンもキラキラしてすごく綺麗。イェジさんが宿舎を出てひとり暮らしをはじめたのは秋からで、このお部屋で迎える最初のクリスマス。
「全然だよ〜ごはんはデリバリーだし、ケーキはチェリョンが買ってきてくれたし」
テーブルに白いビニール袋や箱、パックなどにおさまったままのディナーたちが目に入る。
「手伝うね」
ニットを腕まくりしてカトラリーやお皿を出す。シャンパングラスと普通のグラスも。
「何で5個なの」
「え、だってみんなの分」
「ふたりじゃん、え?」
グラスを指差して笑われた意味が分からなくてそのまま答えた。
「ふたりっきりだけど?」
ストレートに事実を告げられて混乱する。私はてっきりみんなと一緒に過ごすものだと思ってたから。
そういえば5人のグループトークじゃなくて、直接誘われたことを思い出した。
「みんな呼ぶ?」
ジーンズのお尻ポケットからスマホを取り出して連絡しようとするのを制止した。
「いいよ、ふたりでしよ」
気まずそうに横からチラチラ見ないでほしい、怒ってなんかないのに。
こうやって食い違うのは日常だったし、お互いの好みが正反対なのも分かりきってることじゃん。
「ケーキ!ケーキ食べたい!食べよ!」
痺れを切らしたようにケーキを取りに行かれた。ふたりきりを望んだのはイェジさんでしょ。
「わ、ケーキめっちゃある!」
箱の中でひしめきあうケーキに喜んでくれたのに、まずいって顔して口元を抑えてる。ホールケーキじゃなくて色んな種類を人数分以上用意したから、そりゃめっちゃあるよ。
「オンニどれにする?」
「チェリョンが先に選んで」
ベリームースにピスタチオ、オペラにヘーゼルナッツの何て言ってたっけ?覚えてられないぐらいたくさん買ったのに何で私を優先するんだろう。
「好きなのとって」
とケーキから視線を逸らさないで言うものだから。
手を伸ばしてオンニの指先をきゅっと握った。