想定解我らがリーダーはそのような行事には全く興味がないだろう、とボータは考えていたのだが、それは間違いだったようだ。
不在中の報告を聞き終えたユアンは、ところで、と笑みを浮かべてその話題を切り出してきたのだった。
「お前も何か貰ったのか?」
想定外の問いかけに面食らったものの、質問の意図は容易に想像できた。ユアンが久しぶりにベースに戻ってきた今日は、奇しくもバレンタインデーである。ベース内でも、恋愛事に限らず、日頃の感謝を込めてチョコレート等の菓子の交換が行われていた。ボータもまた、部下の何名かから菓子を受け取っていたのだが、ユアンの様子から察するに想定解は「否」であると思われ、果たして正直に返答すべきか言いあぐねていた。ただ、その間が如実にボータの心境を表していたらしい。ユアンの表情が不満げなそれへ変わった。
「まぁ、貰っていないということはないだろうが、それにしても正直に言えばいいだろうが。何を忖度している」
「……申し訳ございません」
「謝る必要などないだろう。報告は聞いた。下がれ」
機嫌を損ねてしまったか。差し当たって伝えるべきことは伝えたため、ボータはひとまず辞することにした。変に上官を刺激しないよう、普段通りに黙礼し、通路へ足を踏み出そうとした、その時。何かが自分の方へ投げられたのを感じ、右手でそれを受け止めた。
「腐らせても仕方がないからな。好きにするがいい」
手の中のそれは何か小箱のようだった。だが、今ここで中身を確認すると、さらにユアンの機嫌が悪くなることは間違いない。礼だけを述べ、ボータは部屋を出た。