お肉よりお魚。特に、白身魚。「いらっしゃいませ!」
お昼のいちばん忙しい時間帯から少し経った頃。すらりと背の高いカップルが来店しました。お冷とメニューをお持ちすると、女性の方がとてもやさしくほほ笑んでお礼を言ってくれました。それからわたしは、ふたりが注文を決めるまで、すこし離れたところで待っていました。
ご注文を待つ間、わたしはよく、お客さまが何を選ばれるのか考えたりしています。体のおおきい人が必ずしもお肉を選ぶというわけでもなく、スリムなお客さまでも案外たくさん召し上がる方がいらっしゃったり、いろいろ面白いです。
あのふたりは何にするのかしら。こっそり、おふたりのテーブルの方をうかがってみました。それにしても、とてもきれいなカップルだなぁと思いました。男性の方はちょっと視線が鋭かったりして、きりっとした感じできれいです。女性の方は、先程わたしにほほ笑んでくれたみたいに、ふわっとやわらかな美しさを感じます。このふたりが注文するなら……そうですね、お肉よりはお魚、という感じがします。特に、白身魚。あまり主張しすぎない、しずかなお魚がぴったりな気がします。
すると、男性が手を挙げてわたしを呼びました。ご注文が決まったのでしょうか。ほかのお客さまのお邪魔にならない程度に急いでテーブルに向かうと、メニューを開いたままわたしにこう質問されました。
「こちらに来るのは初めてなもので、おすすめは何だろうか?」
うちの一番のおすすめはチキンソテーです。皮はカリっと、中は肉汁たっぷりに焼き上げるのが自慢です。でも、このふたりには、私は白身魚を食べてほしいなと思いました。だから、こうお返事しました。
「当店のイチオシはチキンソテーです。ですが、私はお二人には白身魚の香草焼きをおすすめします」
男性はすこし考えてから、それにしよう、と私に告げました。お相手の方も同じものを注文されたので、それからお飲み物をお伺いして、私はキッチンに戻りました。
白身魚の香草焼きは、チキンソテーよりは注文数が少ないけれど、うちで独自にブレンドしたハーブを使っているので、結構リピートしてくださるお客さまも多いです。焼きたてのお皿をお持ちして、わたしはまたすこし下がって、ふたりの様子をドキドキしながら伺いました。
やわらかなお魚を小さく切って、ひとくち。ふたりは視線をあわせ、ほほ笑んだようでした。なんだかふたりのまわりの空気がやわらかくなったように感じました。よかった。お気に召して頂けたようです。しずかにおしゃべりをしながらお料理を楽しむふたりを見ていると、やっぱり白身魚がお似合いだな、と思いました。
あっ、また新しいお客さまがいらっしゃるみたい。今度のお客さまは、どんなお料理を選ばられるのでしょうか。
「いらっしゃいませ!」