カレイの磯部揚げ薄味か。少し硬めの衣を齧った口内に広がったのは、想像より少ない塩気だった。
立ち寄った先で昼食を摂ることにしたのだが、出されたうちの「カレイの磯部揚げ」が……いや、これは果たして何か味付けがしてあるのだろうか。青のりを混ぜ込んだ衣にもさほど味がついていないため、よく言えば、白身魚本来の味が楽しめる。決して不味いわけではなく、その証拠に、同じ皿に並ぶ竹輪の方は普通だった。ただ、竹輪はそもそも味がついているので、カレイと比べても仕方がないのだが。
しかしそれにしても、調味料をかけに席を立つのも面倒くさい。濃すぎるよりは随分ましか。そう思っていると、向かいに座るマーテルがカレイの方を齧った。何度か咀嚼する彼女の表情が、少し考え込むようなものに変わってきた。……ああ、目が合った。口の中のものを飲み込んでから、彼女は口を開いた。
「とても……お魚の味が、よくわかるわね」
感想を述べる言葉の間が、彼女の言外の感想を実によく表していた。必死に気分を害しない表現を探していた彼女の内心を想像すると、つい笑みを零してしまいそうになってしまい、私は何とか表情を取り繕ったのだった。