佐海 良輔 届かないとしても伝えたい。伝わるまで、語りかけることを諦めない。
昔むかし、右手は誰かに引いてもらう手だった。守るため戦ってくれたひと、優しい笑顔を向けてくれたひと、明るい髪色で前をゆくひと。右手を預けたその人たちは、利き手を委ねて安心していい人だった。
昔むかし、左手は誰かを引いてゆく手だった。あどけなく抱きつく手の、恐々と握り返される手の、ためらいがちに取る手の、ともすれば失われてしまうその頼りなさは守られるべきものだった。自分がそうできるよう、利き手は空いていなければならなかった。
目を開ける。
いま、両手は武器を握る。
かつて右手を委ねた人を、かつて守りたいと願った手を、すべて背中に負っていく。
握りしめた手から優しさを、握り返された手から心強さを受け取った。
かつてこの手で触れたぬくもりで、今俺は立っている。
伝わらないとしても語りたい。
俺の願った場所はここだった。
帰る場所はここだった。