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    hota_kashima

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    hota_kashima

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    和さん出撃後のお話。都市伝説を基にして書きました。

    1945年の2月。
    1日の中で一番寒い夜明け前のことだった。キンと冷える空気を切り裂くように空襲警報が基地の中を鳴り響く。
    最近では連日の空襲に備えて毎日機体の翼の下で毛布を被り眠っていた俺はすぐさま飛び起きた。
    緊急の出撃時は兎に角早くエンジンを温めなければならない。エンジンが冷えたままだと性能が落ち、戦闘機の力を存分に使うことができないからだ。
    エナーシャを回しエンジンを起動させていると飛び出してきた整備兵達が次々と作業を始める。
    「塚本!エナーシャは俺が回す。風防片っ端から開けて中の確認!」
    「はい!」
    いつでも操縦士が飛び乗れるよう風防を開け
    計器類の確認をしていると海側から轟音と共にグラマンの編隊が現れた。
    「もう来やがった!」
    整備曹長が慌てた声を上げるとババババという炸裂音と共に駐機場に停めてある機体に次々と機関掃射される。
    迫ってくる機関銃の弾にもうダメだと諦めかけた最中、グラマンの翼から火が噴き上がり滑走路脇の林に墜落をした。
    「友軍だ!」誰かが薄く明け始めた空を指差すとそこには一機の五二型がグラマン8機を相手に空中戦を仕掛けている。
    この基地の零はまだ一機も飛び立てていないことから、他の基地からグラマンを追ってきてくれたのだろう。
    その操縦士の腕前は凄まじく、低空にも関わらず見事な捻り込みで次々とグラマンを撃墜していく。
    諦めた数機は海へと逃げ帰ると基地から発進できた零数機はそれを追って出撃をした。
    先程グラマンを撃退してくれた零はまた基地の周りを警戒しているのかしばらく上空を旋回した後、翼を揺らしてこちらに挨拶をしてくる。
    「一度ここに降りてくる感じかな?」
    着陸に際し一度低空で駐機場をぐるりと回ってきた機体を見やると操縦士の顔がこちらを向いている。
    「和さん…?」
    見間違えることはない。先月特攻で征った橋内中尉が風防の中でこちらを見て微笑んでいる。
    あの機体の塗装の剥がれ…そうだ。あれは橋内中尉が最後に乗って征った機体…俺が最後に整備をしたあの機体だった。
    「和さん、生きていたんですか!」
    機体に向かい声を上げると機体は着陸体制に入る。機体を水平に、3つの車輪を同時に地面に着けまっすぐ着陸をする綺麗な着陸だ。
    まだ勢いを殺しきれていない機体が俺の前を通過すると間近で和さんと目があった。その顔は少し困ったような笑顔をしている。
    どうしてそんな顔をしてるんですか?と思った最中、風だけを残して機体がフッと消え失せた。
    何が起こったか頭で理解ができない。
    「あれ?今の機体は??」
    隣にいた整備曹長を見やると整備曹長はチョークを外し戦闘機の発進を急いでいる。
    「塚本どうした?早く他の機体も見てこい!」
    「い、今着陸した機体が、き、消えましたっ!」
    一緒に機体を見ていたはずの整備曹長は俺の言っている言葉の意味がわからないようだった。
    「何寝ぼけたこと言ってんだ!まだほとんどの機体が離陸もしてないのに着陸する機体なんぞおらん!」
    スパナでケツを叩かれる。確かに痛みを感じる。これは夢ではない。
    だがこの場にいる者達で着陸をしようとした橋内中尉の機体を見たと言う者は俺の他には現れなかった。
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