夜明け前の滑走路は、まだしんと静まり返っている。
肩から提げたランプを頼りに、滑走路の端から端までをゆっくりと歩いていた。
一日の始まりは、決まってこの点検からだった。
寒さで息が白い。まだ誰も起きていない時間だ。だが、機体が無事に帰ってくるためには、この時間が最も重要だった。
小石ひとつ、ボルトひとつ、滑走路の罅ひとつが、命取りになるのだ。
「…これは、彗星の脚回りの鋲かな?」
見慣れた鋲を拾い上げ、懐にしまう。後ほど、どの機体のものか照合しなければならない。
これも自分の仕事であり、自分にできる最前線だった。
ふと、耳の奥で空気が震える。低く、地を這うような、だが聞き覚えのあるエンジン音。
「…え?」
2577