プロペラの風圧で舞い上がった海水が飛沫を上げ風防にザァザァと降りかかる。
海面ギリギリの低空飛行を長時間続けて疲れ果てた心身に鳴り止まない雑音は苛立ちを増長させた。
敵のレーダーに一度察知されてしまえば今回の計画は水の泡となる為、高波の中を海面ギリギリを飛んでいた。
長時間の低空飛行に部隊の、特に若手の消耗は激しかった。
部隊最年少の関二飛曹の機体が安定せず、その度に横に並び手信号で指示を出していたが、もう限界の様で頭を上げ後尾輪を水面に掠めながら飛んでいる。
飛行訓練生の中で最も優秀だったとしても部隊に配属されてすぐに片道700kmの低空飛行など無理に決まっている。この作戦を言い渡された時、再三無理だと提言したが、酒井大佐は聞く耳を持ってくれなかった。
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