人差し指越しの「今日も自分におつカレー…」
午前のステージを終え、パーロン城へと戻っていくロヴィアン。彼女の路上ステージはいつだって大盛況だ。
「休む時間はmeno meno meno。ドアtoドアでシング ア ソング…」
独り言ポエムを呟きながらパーロン城に入ったロヴィアンだったが…
「おかえりなさいませ。ロヴィアン!」
「………?」
自身の居城に堂々と居るユウナを前にして流石の彼女も固まってしまった。
「こうしてお茶をするのも、久しぶりですわね〜」
「…お前は自由になったな。」
用事で地下居住区に来たユウナは久々にロヴィアンに会いたくなったから…とティーセットとテーブルを持ち込んでパーロン城に来ていたのだった。
「…最近はどうなんだ。ゴーハも色々やっているそうだが…」
「そうなんですの!ムツバ重機も縮小してMIKも無くなった今、ムツバ町はゴーハ一色!ゴーハ町になる日も近い程の大躍進ですわ!」
「…まあ、それなら良かった。」
ムツバ重機とMIKが縮小・消滅した理由から目を逸らしつつロヴィアンは話を続けた。
「こっちも、最近は良い調子だ。プリンセスとのコラボステージも楽しい限りで、ファンも順調に増えている。実に良いことだ。」
「お話は聞いていますわ。なんでも素晴らしいポエムだとか…」
「…そういえばお前は最近ステージに来ていないな…」
「どうにも仕事の方が忙しくて…中々ままならないものですわ。休み返上で働いてるもので。」
(………)
ロヴィアンは話を聞いて少し考え込んだ。
(ユウナがステージに来ていないのは何も最近だけの話ではない…盗賊団を抜けてからほとんどずっと…だが問題はそこじゃない…)
(ユウナは、働きすぎな気がする…まるで没頭するかのように…ゴーハが忙しいだけじゃないだろう。)
(ユウナ…お前はまだ諦めていないのか…?)
全てが終わった後、アサカから聞いたユウナの目的。王道遊我に会うという夢は、ここにいる全てを切り捨てても叶えたいものだったのか。
(…だが、ユウナは反省が出来ない子じゃない。もう、あのようなことはしないはずだ。…だったら…)
ロヴィアンは、一つの可能性に考えついた。
(…諦めたくても諦められなくて。仕事に没頭することで少しでも忘れようとしているのか…?)
(だがそれは己の身を破滅させるだけだ。…ユウナは…)
「…?ロヴィアン?どうかしましたの?」
長い沈黙が、ユウナの疑問で破られる。
「…ユウナ」
「なんですの?」
「…お前はこの先も自分の道を進んで行くのだろう。例えどんなに危険な道でも。それ自体は否定しない。」
「だが…忘れないでくれ。お前の行く先を心配する者もいるということ…」
そこで、ロヴィアンの言葉は止まった。
テーブルから身を乗り出したユウナがロヴィアンの唇に人差し指を当てていたのだ。
「ふふっ…そんなこと心配ご無用ですわ。」
突然の行動に再び固まるロヴィアンにユウナは微笑み、話を続けていく。
「アタクシの身を案じての言葉でしょうが…アタクシはこの通り、ピンピンしていますわ!それに最近忙しかったのは理由がありましてよ?」
ユウナは、ロヴィアンの唇につけていた指を自分の唇につけて続けた
「ここだけの話…ゴーハ主催のラッシュデュエル大会を開催するのですわ!」
「………ラッシュデュエル大会?」
我に帰ったロヴィアンが思わず聞き返す。
「前にやったギャラクシーカップよりももっと大きい規模で開催しますわ!そのために地下居住区にドローン配置の準備をしていましたの。」
「用事とはその事か…」
「ウフフ…遊歩やアサカがこの事を知ったらどんな顔をするのやら…今から楽しみですわ…。もちろん、開催したら真っ先にロヴィアンを招待しますわ!」
笑顔で話す若き社長に、執着の念は感じられない。そう思ったロヴィアンはついさっきの自分の考えを笑った。
「…杞憂杞憂キュウリは夏野菜。夏野菜カレーも美味しいよ。」
「ああっ!噂のカレーポエムですわ!」
「ラッシュデュエル大会。実に楽しみタンタカタン。首をフェルマータでウェイティング。」
「宇宙ポエムまで!流石ですわ、ロヴィアン♪」
「ユウナ。私はお前の道を、お前のロードを応援している。…今のポエムは応援歌代わりだ。」
そう言ってロヴィアンが出した手を、ユウナは両手でしっかりと掴む。
「…ありがとうございます、ロヴィアン!アタクシ頑張りますわ!」
ティーセットとテーブルをドローンに運ばせながら、ユウナはパーロン城を去っていった。
「フッ…成長したな、ユウナ。」
玉座に座りながら先の話を思い返すロヴィアンだったが…
(…そういえばユウナは私の口を塞いだ後、同じ指で自分の口に触れていたな…)
(………という事は………人差し指越しに…)
ユウナは全くの無自覚。それは彼女もわかっていた。いやさわかっていたからこそ…
「…自由になったな…ユウナ…」
顔を真っ赤に染めたパーロン城の女王は、一人悶々としていた…