贄の子(仮) それは、吹く風も冷ややかな秋のことだった。
「……ひでえな」
連なる山々の中でもいっとう高い山の、その中腹まで登りきった虎杖は、葉を落とした木々の隙間から、麓にある小さな集落を眺め下ろして眉を寄せた。
以前この場所で同じように眺めた時には、刈り入れを待つ稲穂が黄金色の敷物のように遠くまで広がっていた。その合間に点々と建つ藁葺きの家々が収穫の準備に忙しくしている様子に、土地を持たないみなしごの虎杖は淡い羨望を覚えたものだった。
しかし今はほとんどの稲は立ち枯れてひび割れた地面が覗き、なんとか育った穂が頼りなげにゆらゆらとしているのが見えるだけの、荒れ地にも見間違うような田畑しか見つけられない。
この時期なら収穫の準備で忙しなくしているはずなのに、どの道も歩く人の姿は見当たらないし、荷引き用の牛小屋がどの家も空になっているのが遠目にもわかる。昼間だと言うのに煮炊きの煙もなく、もはや村と呼ぶことすら危ぶまれそうな光景だ。
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