砂を踏む 足の指の間から砂が、波に攫われてさらさらと流れていく。濡れた砂が素肌に張りついた、じゃりじゃりとした感触を僅かな間だけ味わう。波はまたすぐに寄ってきて、つま先からくるぶしまでを飲み込む。
波がさる度、紅明の足が砂に埋まっていく。あるいは、海に引き摺り込まれていく。
「そのまま、海に沈んでいきそうだな」
背後から聞こえた声に振り向く。
木製の義手と義足にまだ慣れぬ体で、ぎこちなく佇む兄がいた。
「兄上の方こそ、風に攫われそうですよ」
どちらともなくニヤリと笑った。
沙門島の海は穏やかで、風は柔らかい。
生活物資の輸送船が来る日以外は、とても静かな島だ。
「時々、お前が死ぬのではないかと怖くなる時がある」
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