欲情、春の画より 本を、片付けていた。
棚の上に重ねられた山が、少し崩れてしまいそうに思ったのだ。
いつもは勝手には触らない、彼の大切な本だ。
気を付けて扱わねばと、なるべく丁寧な手つきを心がけた。
ふぁさり、
――と紙が一片、折り畳まれた状態で、床の上に動きを止めた。
私は膝を折って紙を拾った。
好奇心からあまり考えもせず、その裏まで墨の滲んだ紙を広げた。
「あ」
春画であった。まずいと思った。
その紙の上には、裸の女と男が床に傾れ込んで絡み合っている。
見てしまったと、ぱたりと紙を折りたたみ、次第にいくつかの思考が浮かんでくる。
これは、彼の知らない部分を勝手に見てしまったような、罪悪感だ。
彼もこういうものを見るのが好きなのだろうか。いや、勘兵衛とて男なのだから然るべきこと。むしろ今まで、なぜ彼は見ないだなんて思っていたのだろうか。
他にも、えも言われぬ気持ちが湧き上がっている。
私はもう一度、その春画を広げてみた。
今度はじっくりと、描かれたものを目に留めてみる。
女は足を広げていて、男は物売りらしい格好で服を着たままである。傍に天秤棒と荷物が置いてあるので振り売りの物売りなのであろう。
そうして私は一つの答えが明確になる。
私も勘兵衛と、したい。
「どうした?嫌だったら、無理しなくてもいいぞ」
「ん……嫌じゃないよ、なんで?」
心のうちを覗かれた気がして、私はまた少し、どきりとする。
自分の中に埋まる彼の質量が起こす快感に、そわそわしてしまう。
「いつもと違う。それに、何か考えていないか?」
勘兵衛は優しく髪に触れながら額を撫でると、先ほどまでよりもゆっくりと抜き出して、挿入をしていく。
私は背筋にぞくぞくと快感を感じながら、緩やかに入り込んでくる熱と肉棒を受け止めた。
「はぁっ……勘兵衛と、したかったの」
「珍しいことを言うんだな」
「春画を、見つけて」
彼は一瞬、動きを止めた。
「春画?」
「勘兵衛の本の間に」
「….…!?な、見たのか!?」
「片付けてたら、出て来て」
勘兵衛は頭を下げて、気まずそうに私の反応を窺っている。
「怒るか?」
「怒らないけど、なんか、変な気持ちになったの」
私はやめないでほしくて、彼の腰に脚を絡み付けて少しだけ腰を動かした。
「嫌だったのか?」
「ん……違くて、その、私も勘兵衛としたいなって」
正直に言ってみたものの恥ずかしくなって、下半身の動きに反して、目の前の胸板を少し、押し離そうとしてしまった。
「でも、勘兵衛が、他の女の人にもそういう気持ちになれるんだと思ったら、それは……ちょっと嫌かもって」
胸を押したままの手首を掴まれて、するりと手のひらに指が滑り込んだ。
「もう見ない」
「そこまで言ってないよ、気にしないで」
「✿しか見ていない」
目の前にある目が射抜いてくる。大きすぎない黒い目が強くこちらを見ていることが、少しだけ漏れた月上がりのせいで分かってしまう。
「俺も同じだ、あれを見た時、✿としたいと思ったんだ」