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    fresh_chin

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    マイ春で風邪ひきちよ

    「はあ?風邪ェ?」
    「ッセ〜な〜……頭痛ぇんだからでかい声出すなや……」
    「普段のオマエと比べたら蚊の鳴くような声だと思うけど」
    スマートフォン越しにゴホッと咳込む音が聞こえ、万年あっぱらぱーなヤク中でも病気にはなるんだなぁと九井は妙に感心した。
    「今日ある仕事他のに回せっか?」
    「おー……まぁ、大丈……いや嘘。午前中の方は良いけどよ、20時の“試食会”は三途が顔出すべきだろ」
    「あーあれ……。オマエ無理なん?」
    「表の接待ある」
    「明石」
    「有休で温泉旅行中」
    「うちに有休なんて制度あんの?俺にも使わせろって」
    「ハハハ」
    無言の応酬がしばらく続き意外と仕事には真面目な三途が今回は折れた。掠れた溜息をゆっくり吐き出す。
    「わーった行けば良いんだろ行けばよォ。ギリギリまで休むから、迎え寄越す前に連絡入れろ」
    ブツっと腹立たしげに通話を切ると、先程まで寝転んでいたベッドにまた身を投げた。寝具の軋む音さえ煩わしい。熱と頭痛に吐き気の役満だし、咳まで出ている。先程常備していた風邪薬を服用したが、普段から薬物の類いを摂取している身体では効くものも効かないのか、一向に効果が分からない。
    布団の端へ指先を伸ばして僅かな冷感を求めぐずぐずと時間を過ごす内に、多少は眠れたらしく起きた時には部下が迎えに来るタイミングだった。怠さが残ったままなので身繕いから九井への連絡まで全てやらせた。顔の赤みが誤魔化し切れなくて、久方ぶりにマスクを口元へつけて出発する。

    “試食会”は体調が万全なら三途としても喜び勇み行きたい所であった。
    もちろん梵天NO.2である三途がわざわざ飲食店で出すようなメニューの開発に関わる筈はなく、新たに巷へ流す薬物の“味見”だ。大好物かつ得意分野のため彼以上の適役は無く、このような不測の事態だというのに代りの想定がなかった。
    「オイ揺らすな!吐き散らかした後に殺すぞ!」
    運転する部下がヒィッと悲鳴を挙げた後に平謝りする様子を見て、下の教育とか鶴蝶辺りと相談してみるべきか?など熱で浮かされた頭で考えていた。



    「どうも、お待ちしてました。本日はお時間有難う御座います」
    「いえ。私も本日を楽しみにしてました。そう畏まらずいきましょう」
    ニコッと傷を隠して営業用のスマイルを浮かべる姿は、彼の首領が見れば東卍がまだ暴走族で収まっていた頃の猫を被った三途そのものだが、此処にそれを指摘する声はなく。その美貌に見惚れる人間のみだ。
    尚更今夜は頬の赤みが艶っぽいうつくしさに拍車を掛けていた。
    「……此方へ」
    しめた、と正直思った。顔に惚れるような奴は勝手に印象を作り裏切ってもギャップとか適当に自ら喜びを作り出す。昔は顔がどうこう言って来る輩は鬱陶しかったが、(反)社会の歯車になった今となれば自らの使い所を三途は良く理解していた。
    「あっ」
    「え?」
    ふらりとよろけて交渉人の肩へ凭れかかる。
    「あの、」
    「すみません……体調が良くなくて……」
    ゴクン、と生唾を呑み込む音が聞こえた。
    申し訳なさそうな上目遣いで間抜け面を眺める。あ〜〜!本当、つまんねぇ野郎って馬鹿なんだよな〜!!
    なんだか面白くなってしまい薬でキマる前にニコニコ三途は微笑み続けた。今夜の取引は九井が喜ぶくらい安くあがりそうだ。





    「ふぇ?あー?マイキーらあ」
    新しい味は三途の好みに合い、体調不良を忘れて馬鹿みたいに楽しんだ。取引先もそんな三途を見て満足したらしく予想通り良いお買い物になった。楽しい気分のままアジトを訪れたらタイミングが良かったようで敬愛する首領に出迎えて貰えたのだから、益々嬉しくなる。
    千鳥足で抱きついて肩口にぐりぐり顔を埋めて甘えた。
    「懐かしいな、マスク」
    特に抵抗せず三途の好きにさせたまま、あやすように桃色の頭を右手で撫でる。
    「風邪ひーてて、あ、うつっちまうか。すみません」
    「なのにキマってんのかよ。テメエは本当に……」
    「誤解れす!仕事で!」
    呆れた声音を拾い、慌てて顔を上げ訂正するが、今日は仕事のせいだとしても普段から薬漬けの奴が何の誤解をとこうというんだ。シラ〜っとした上司の視線を受けて困ったように眉尻を下げた。手に入れた薬はアジトの”秘密の場所”へちゃんと置いて来たし、居た堪れないからもう帰ってしまおうかと三途が考え始めると、大きな溜息をマイキーが吐き「三途。オマエ今日俺んち」マスクを外しながらそう言って本人の手へ返した。熱で赤い頬が現れる。
    「風邪うつっちゃいます、て」
    「この俺が移るわけねぇだろ」
    何の根拠もないけれど、マイキーが言うならそうなのだろう。昔から変わらない不変の事実なので。三途は近くで控えていた部下の存在を思い出すと、車の手配を任せた。
    横からマイキーがその下っ端の胸ポケットからボールペンをするりと抜き取り、雑に引っ張った手の甲へ何事か書き出していく。買い物メモのようだ。彼がアワアワしながら内容を確認したら、三途に与えるのであろう冷えピタや食料等の看病グッズだった。当の本人はこういう時に限って薬の作用が深まったのか幻覚で何も見ていない。
    「着いたらこれ全部買って部屋持ってこい」
    「う、うす!」
    「あれマイキーなんか腕ふえましたァ?観音様みてぇ!ダハハっ!」
    「……喧しくなる前に早く車回せ」
    「うす!」
    「ダーーーハハハハハ!!!」
    駄目だ遅かった。もう喧しいうるさい。何処に住む山賊なんだよお前はよ。
    顔は可愛いのに、長年連れ添ってもこればっかりはどうしようも出来なかったなぁなんて。日本最大の反社会的組織トップの自宅は、秘匿に秘匿を重ねて、結構な時間を車内で揺られる。
    暫く助手席で笑い続けた三途は一周回って落ち着いてきたらしく、今度は小声でブツブツ何か呟きだした。そろそろ黙って欲しい。
    「つーかラリった後に風邪薬って飲んでいいのかな。オマエ知ってる?」
    「え!?」
    無垢で頑張ってて可哀想な奴が好きだ。タケミっちみたい。だから周りが思っているよりも下っ端の使えなそうな奴にマイキーはよく絡む。アワアワしながらも安全運転を心がけているので大方行きの道で三途に何かしら文句を言われたのだろうとあたりをつける。隣の雑音に負けず本当に頑張っているなと思った。



    漸く辿り着いたマイキーの住処は物が少なくて、いつも通り何処か寒々しい。
    「風呂入れんのオマエ」
    「入ります……マイキーのベッドを汚せねぇ」
    「いや散々汚してるだろ」
    三途とマイキーは不眠症だ。特にマイキーの方が酷くて何夜も眠れぬ時間を過ごし、目の隈を濃くしていることは珍しくない。それを見兼ねていつからか眠れない夜には三途が押し掛けて来た。アロマとか枕とか、安眠の為に色々世話を焼かれて人肌恋しさについ手を出した。
    手酷く抱いたつもりだったが頑丈な男は翌朝にはケロリとした顔で眠れたみたいで良かったと宣った。そうしてずるずると不健全な関係が続いている。
    勝手知ったるという風に浴室へ向かう三途を見送り、TVのリモコン片手にチャンネルを回して面白そうな番組を探すが、途中で飽きてソファに寝転がる。
    「寝てます?」
    風呂からあがった三途はろくに体も拭かないままマイキーの腹の上に跨ってきた。ぽたぽた髪の毛から滴る水滴が服にシミを作っていく。
    「したい」
    「風邪引いてんだろ」
    「汗かいたら熱下がりそう」
    「大人しく寝ろよ」
    「どうせ眠れません」
    いつまでも気乗りしない様子に痺れを切らした三途は、強引に唇を寄せて舌を捻じ込んできた。喉を滑り落ちていく異物感に一服盛られた事を察した。三途は悪びれもせず今度はチュと頬に軽いキスを落とす。
    「おま……!」
    「今日買ってきたやつ。トび方気持ちかったですよ」
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