SSR OFAヒーロー デク 近所に大手ヒーロー事務所がある関係で、勤務先のコンビニは稼働率が高い。
犯罪率は下がってきたが、事故や災害の頻度にはあまり変化がない。そのためか、くだんのヒーロー事務所は夜でも煌々と灯りがついている。
だから、深夜になると、よく事務所のサイドキックたちが夜食やアメニティの買い出しにやってくるのだ。
多い時は十数人分の商品をまとめて買っていくから、今夜もホットスナックや弁当類が売れるだろう。
深夜のピークを見越して陳列作業をしていると、ふ、と視界の端を人影がよぎった。
ツンツンとした金髪に、吊り上がった赤い目。
コスチュームの生地から浮き出た筋肉の凹凸。。
大戦の英雄にして、最近まで落ち気味だったチャートを急速に駆け上がってきた復活の代名詞。
大・爆・殺・神ダイナマイトであった。
正直、驚いた。
倹約家のダイナマイトがコンビニに来るなんて珍しい。
明日は槍でも降るだろうかと思いつつ横目で追っていると、ツンツン頭がスッとしゃがみこむ。
しゃがんだ先、スナック棚の下から二段目は空っぽだ。
「すみません、ヒーローズチップは売り切れちゃってて」
「あ?」
「あれ、違いました?」
「あー…いや、合ってる」
ガシガシと後頭部を掻いてダイナマイトが立ち上がる。
ランキングに名を連ねたヒーローのカードがおまけに付いてくるヒーローズチップ。
あまり変わり映えのしなかったラインナップが激変したのは、つい最近のことである。
それからというもの、ヒーローズチップは飛ぶように売れた。
放っておくと根刮ぎ購入されてしまうので、この店では購入制限を設けている。
とはいえ、制限を設けていても入荷した当日には売り切れてしまうのだから、ヒーロー人気は凄まじい。
「次の入荷は」
「未定ですね」
そもそも製造が間に合っていないはずである。
「そうか」
なんでもないように振る舞っているが、下に弟が三人もいれば、いやでも察してしまう。
───ヒーローズチップ、買いたかったんだな。
「あの」
勇気を出して、心なし意気消沈した横顔に呼びかける。
「ダン箱開ける時に包装破けちゃって、廃棄予定のやつならあるんですけど」
「…それ売っていいやつなんか?」
「破けてんのは端っこの方だから中身は無事です。念のため引っ込めてた感じなんで」
言い訳のようになってしまうが事実である。
変な商品を売って、後からクレームになるくらいなら潔く引っ込める。今回の場合などは尚更だ。商品が商品なので、ややこしいことになりかねない。
「お客さんが破損品でも問題ないっていうなら、その一個、出せますよ。買います?」
「買う」
食い気味だった。
バックヤードから件の品を引っ張り出し、POSに読み取る。
その間も、手元には強い視線が注がれ続けていた。
気難しい。
怒りっぽい。
口が悪い。
ヒーローらしからぬヒーロー。
そんなヒーローだと思っていたが、案外素直というか、可愛いところがあるのかもしれない。
成人男性相手に少々申し訳ないが、お目当ての商品が買えてそわそわしているところなんて、年の離れた一番下の弟にそっくりである。
なんとなく、今なら聞ける気がした。
「誰狙いなんですか?」
「デク」
「え、幼なじみですよね?」
頼めばカードだけ貰えるんじゃないですか、と問えば、自分で引きたいから嫌だ、と一刀両断される。
「助かった、ありがとな」
退店の歩みが軽い。
きっとこの後、事務所で開封するのだろう。
デクのカードはSSRだから排出率は低いけれど。
一発で当たるといいな、と思った。