『お揃いの贈り物』放課後の教室は、夕陽のオレンジ色に染まり、部活に向かう人や帰宅する人達の賑やかな声が響いていた。窓際の席に座る私は、教科書を片付けながら、金城くんと他愛もない話をしていた。自転車部の練習前、こうして二人で過ごす時間が最近の私の小さな楽しみだった。金城くんはいつものように落ち着いた雰囲気で、でもどこか少しそわそわしているように見えた。ふと、彼がカバンの中をごそごそと探り、緊張した面持ちで小さな布袋を取り出した。
「○○さん、…これ、受け取ってくれるかい?」
金城くんの声はいつもより低く、ほんの少し震えているようだった。差し出されたのは、白いハンカチ。シンプルな生地に、角には小さなヘビの刺繍が施されている。ヘビの目はキラキラ光る青いビーズで、つぶらな瞳がなんとも愛嬌たっぷりだ。『石道の蛇』と呼ばれる金城くんらしい、でもどこか彼の真面目さが垣間見える丁寧な手仕事に、私は思わず見入ってしまう。
「金城くん、これ…!すごくかわいい!ヘビ!?このビーズの目、キラキラしててほんとかわいいね!」
私は目を輝かせてハンカチを受け取り、刺繍を指でそっと撫でる。ヘビの曲がったしっぽや、ちょこんと丸まったフォルムが、なんとも金城くんのセンスを感じさせた。教室の柔らかな光がハンカチに当たり、ビーズがキラリと輝く。
「喜んでもらえて何よりだ。俺…○○さんに何か贈り物したくてさ。ハンカチなら毎日使えて、さりげなくて良いかなって思ってな///」
金城くんは少し照れくさそうに頬をかき、普段は冷静で頼れる自転車部主将の彼が、こんな風に少し自信なさげな表情を見せるのは私だけなんだよな、と私は心の中で思う。「自分で刺繍してみたんだが…どうかな?下手じゃなかったらいいんだが…」
「下手だなんてありえないよ!金城くん、すっごーく上手!このヘビの刺繍、とても愛嬌あって大好き!ほんと、こんなかわいいの作れるなんてびっくり!」
私は興奮気味にハンカチを広げ、ヘビの刺繍をまじまじと眺める。金城くんの不器用ながらも丁寧な針目の一つ一つが、彼の私への想いを映しているようで、胸がじんわり温かくなった。「これ、金城くんが夜遅くまで作ってたの?」
「…まぁ、ちょっと時間かかったけどな」
金城くんは苦笑いしながら、軽く目を逸らす。その仕草がまた愛おしくて、私は思わず笑ってしまう。「実はさ、俺も同じの作ったんだ」
そう言って、金城くんはポケットからもう一枚、同じヘビの刺繍が入ったハンカチを取り出した。私のハンカチのヘビは青いビーズの目、金城くんのものは緑のビーズの目。さりげなくペア感のあるデザインが、金城くんの控えめな優しさそのものだった。
「金城くんと…お揃いだ!嬉しい!いつも持ち歩くよ、絶対!」
あなたはハンカチをぎゅっと握りしめ、満面の笑みで金城くんを見つめる。教室の窓から差し込む夕陽が、私の手元のハンカチを優しく照らし、ヘビのビーズがキラキラと輝く。金城くんは私の笑顔を見て、いつもより少し柔らかい表情で微笑んだ。
「○○さんが喜んでくれるなら、作った甲斐があったよ。…あのさ、俺、こういうの作るの初めてだったから、実はちょっと失敗もしたんだ。最初、ヘビの目がでかすぎて、とてもじゃないが怖い顔になっちまってさ」
金城くんが珍しく少しおどけた口調で言うと、私は思わず吹き出した。
「え、どんなの!?それ見てみたい!」
私が笑いながら言うと、金城くんもつられて小さく笑う。「いや、あれは見せられない。速攻でほどいたよ」
そんな他愛もないやりとりが、教室の静かな空気に溶けていく。金城くんの笑顔は、普段の真剣な主将の顔とは違って、少年のようで無防備で、私の心をくすぐった。
「○○さん、これからも…こうやって、一緒のものを増やしていきたいな。ハンカチだけじゃなく、色んなこと、共有できたら良いなって」
金城くんの声は静かだけど、どこか力強く、教室の空気を震わせるように響いた。私はハンカチを胸に当て、じんわりと温かい気持ちが広がるのを感じる。
「うん、絶対!金城くんとこうやって一緒にいられるの、幸せだよ」
私はそっと金城くんの手を握る。金城くんの指が私の指を優しく握り返し、夕陽に照らされた教室に、二人の小さな約束が生まれた。机の上に置かれた二枚のハンカチは、ヘビのビーズがキラリと光り、まるで二人の絆を祝福しているようだった。
「さて、そろそろ部活に行くか。○○さん、また明日。」
金城くんがいつもの主将らしい笑顔で立ち上がり、手を振る。私はハンカチを大切にポケットにしまい、「うん!また明日ね!」と元気に答えた。教室を後にする二人の背中を、夕陽が優しく見送っていた。