『我慢強いあの人の誕生日』京都の六月は、初夏の風が気持ちええ季節や。光ちゃんの誕生日、六月五日。私は朝からウキウキで、紙袋には丁寧にラッピングしたプレゼントと、手作りケーキの箱を握りしめてた。光ちゃんの喜ぶ顔を想像したら、胸がドキドキしてたまらん。
「光ちゃん、びっくりしてくれるかなぁ」
私はひとりごちながら、京都伏見高校の自転車競技部の部室近くで待機。放課後、光ちゃんが練習終わりに出てくるのを待つ作戦や。
しばらくして、部室のドアがガラッと開く。汗と笑顔がまぶしい光ちゃんが、ジャージ姿で現れた。6月の陽気やのに、なんか爽やかさが光ちゃんには似合う。
「お、○○ちゃん! なんや、こんなとこで待っとるなんて珍しいな」
光ちゃんの声は、いつ聞いても柔らかくて耳に心地いい。ちょっと照れたような笑顔に、私の心臓はまたドキッと鳴る。
「光ちゃん、今日、誕生日やろ? 特別な日やから、ちょっと付き合ってほしいんやけど……ええ?」
私が少しはにかみながら言うと、光ちゃんは目をパチクリさせて、すぐにニッコリ笑った。
「なんや、○○ちゃん、ちゃんと覚えててくれたんやな。めっちゃ嬉しいわ。ほな、どこ行く?」
私が連れてったのは、鴨川沿いのいつものベンチ。六月の夕暮れはまだ明るくて、川面にキラキラ光が映る。風がそよそよ吹いて、なんとも心地ええ雰囲気や。私は紙袋からケーキの箱を取り出して、光ちゃんの前に差し出す。
「光ちゃん、誕生日おめでとう! これ、私が作ったケーキや。ちょっと自信ないけど……食べてくれる?」
光ちゃんは箱を開けて、ふわっとしたイチゴのショートケーキに目を輝かせる。クリームに「光ちゃん Happy Birthday」ってチョコで書いてあるの見て、ちょっと顔を赤らめた。
「うわ、○○ちゃん、めっちゃかわいいやん、これ! こんなん作ってくれるなんて、ほんま……なんや、胸が熱なるわ」
光ちゃんはスプーンでケーキを一口。ふわっとしたスポンジと、甘酸っぱいイチゴの味に、思わず「うま!」って声が漏れる。
「○○ちゃん、ほんまにすごいな。こんな美味いケーキ、初めてや。めっちゃ幸せやわ」
私は光ちゃんのストレートな言葉に、顔がカッと熱くなる。「ほ、ほんま? よかった……光ちゃんが喜んでくれるのが一番やから」
ケーキを食べ終わった後、私はドキドキしながらプレゼントの包みを渡した。
「これ、光ちゃんに似合うかなって思って選んだんや。開けてみて?」
光ちゃんが包みを開けると、中から出てきたのはシルバーのシンプルなブレスレット。スポーティーやけど、どこか爽やかなデザインが、光ちゃんの初夏の雰囲気によく似合う。
「○○ちゃん、これ……めっちゃええやん。めっちゃ好みや。ほんま、センスええな」
光ちゃんはブレスレットを腕につけて、ニコニコしながら私の手をそっと握る。
「こんなんもらったら、練習もレースも、もっと気合い入るわ。○○ちゃん、ほんまにありがとう」
「光ちゃんが喜んでくれるなら、私もめっちゃ嬉しいよ」
私は光ちゃんの手の温もりに、そっと自分の手を重ねた。
夕暮れが深まって、六月の空に星がチラホラ見え始めた。鴨川の風はまだ温かくて、二人を優しく包む。光ちゃんは自分の学ランを脱いで、私の肩にかけてくれる。
「○○ちゃん、夜風はちょっと冷えるやろ? 風邪ひかんようにせなな」
その優しさに、私は胸がぎゅっと締め付けられる。
「光ちゃん、ほんまに優しいな。誕生日やのに、わたしの方が幸せもらってるみたいや」
光ちゃんはちょっと照れくさそうに笑って、私の髪をくしゃっと撫でた。
「なんやそれ。○○ちゃんがそばにおってくれるだけで、俺の毎日は誕生日みたいやで。ほんま、好きやわ」
その言葉に、私は顔を真っ赤にして、でも嬉しくてたまらんくて、光ちゃんの胸にそっと寄りかかった。
「光ちゃん、わたしも大好きや。来年も、再来年も、ずっと一緒に誕生日祝おうな」
「当たり前やろ。○○ちゃんとやったら、なんぼでも幸せな誕生日迎えられるわ」
光ちゃんの笑顔が、初夏の夜を照らすみたいにキラキラしてた。
その夜、帰り道で光ちゃんはブレスレットを何度も見つめて、ニヤニヤが止まらんかった。私はそんな光ちゃんを横目で見ながら、来年も、もっと素敵なサプライズをしようって、心に決めたんや。