『君となら何処までも』「ねえ、俊輔くん! たまには恋人らしいことしようよ!」
私は俊輔くんの部屋のソファに座り、ちょっと拗ねた口調で言う。付き合って数ヶ月、俊輔くんはカッコよくて真剣で、ロードレースへの情熱は本当にすごい。でも、恋人としては…ちょっと物足りないのだ。
「恋人らしいって、何だよ。具体的に」
俊輔くんはベッドに寝転がり、クールな声で返す。手には自転車雑誌。うーん、その真剣な顔は大好きだけど、今は私の話を聞いてよ!
「ほら、手をつないで歩いたり、デートっぽいところに行ったり! いつも自転車のことばっかりじゃん!」
私の言葉に、俊輔くんは眉を上げて雑誌から顔を上げる。
「別に、俺は○○と一緒にいられればそれでいい。わざわざ何かしなくても…」
その淡々とした答えに、私のイライラが爆発。
「もういい! 俊輔くんがそんなこと言うなら、私もう知らないから!」
勢いでバッグを掴み、部屋を飛び出した。後ろで「○○、待てよ!」と声が聞こえたけど、無視してドアをバタンと閉めた。
数日後、私は小野田くんと秋葉原にいた。
きっかけは廊下で私が「最近、好きなアニメのグッズ欲しいな〜」と呟いたこと。偶然聞いていた小野田くんが「え、✕✕さんもあのアニメ好きなんですか!? 僕もです! 秋葉原に新しいお店できたらしいですよ!」と目をキラキラさせて誘ってくれたのだ。
「✕✕さん、ここのフィギュア、めっちゃクオリティ高いですよ! ほら、このキャラの表情!」
小野田くんはアニメショップの棚を指さして興奮気味。私もつられてテンションが上がる。
「うわ、ほんとだ! これ欲しいかも…! 小野田くん、詳しいね!」
「えへへ、よく来るから…! あ、向こうにコラボカフェありますよ! 行ってみます?」
私たちはグッズを買い漁り、コラボカフェで限定メニューを食べながらアニメトークで大盛り上がり。
「✕✕さん、楽しそうでよかったです! なんか、最近元気なかったから…」
小野田くんの優しい言葉に、ちょっと胸がチクッとした。俊輔くんには、こんな風に私の好きなことを一緒に楽しむ余裕がないんだもん…。
翌週、放課後の教室で事件は起きた。
私は窓際の席でノートを整理していたら、俊輔くんが突然私の机に手をついて近づいてきた。
「○○、お前…小野田と秋葉原に行ったって本当か?」
低い声と真剣な目に、ドキッとする。教室にはまだ数人いたけど、俊輔くんのオーラに周りが静まり返ってる気がする。
「え、うそ、なんで知ってるの!?」
私が焦ると、近くの席にいた鳴子くんがニヤニヤしながら割り込んでくる。
「いやぁ〜、小野田くんがめっちゃ楽しそうに話してたで! ○○ちゃんとアニメの話で盛り上がったって! なぁ、スカシ、ええやん、別に!」
「うるさい、鳴子!」
俊輔くんがピシャリと鳴子くんを黙らせると、私をじっと見つめる。
「…なんで俺に言わなかったんだよ」
その声、めっちゃ拗ねてる!? いつもクールな俊輔くんが、教室の夕陽に照らされてこんな表情するなんて…ちょっと、いや、かなり可愛い。
「だって…俊輔くん、私の趣味に興味なさそうだったし…。小野田くんは楽しそうに付き合ってくれるから、つい」
私の言葉に、俊輔くんは一瞬目を見開き、すぐに顔を背けた。耳がほんのり赤いのがバレバレ。
「…分かった。次の週末、俺とデートしろ。恋人らしいこと、するから」
え、俊輔くんがそんなこと言うなんて!? 心臓がドキドキして、思わず「う、うん!」と頷いた。教室の空気が一瞬ふわっと軽くなった気がした。
週末、俊輔くんと私は遊園地に来ていた。観覧車やジェットコースターがそびえるカラフルな風景に、私のテンションは爆上がり!
「俊輔くん、遊園地なんてちょー恋人らしいじゃん! やればできるじゃん!」
私がニコニコで言うと、俊輔くんは少し照れたように鼻を鳴らす。
「…まあ、○○が喜ぶなら、いいだろ」
まずはメリーゴーランドに乗ってみた。私がキラキラした馬に乗ってはしゃいでると、俊輔くんは隣の馬でクールに座ってるけど、口元がちょっと緩んでる。
「俊輔くん、楽しそうな顔してる〜!」
「…してねえよ」
嘘、絶対楽しんでる!
ジェットコースターでは俊輔くんが意外と叫んでて、ホラー系アトラクションでは私が怖がってしがみつくと「落ち着けよ、○○」って手握ってくれた。最後は観覧車に。
夜の遊園地を一望できるゴンドラの中で、俊輔くんが口を開く。
「○○、あのさ…。小野田と秋葉原行ったって聞いたとき、なんか…ムカついた」
え、俊輔くんの嫉妬!? 私は目を丸くする。
「俺、○○のことちゃんと見てなかったかもしれない。自分のペースばっかりで…。でも、○○が楽しそうなの、俺だけで十分だろ?」
その真剣な目にドキッとして、私は頷く。
「うん…俊輔くんとこうやって一緒にいるの、とっても楽しいよ」
俊輔くんはホッとしたように笑い、そっと私の手を握ってきた。
「なら、いい。これからも、○○の好きなこと、ちゃんと付き合うから」
観覧車が頂上に差し掛かった瞬間、遊園地のキラキラした景色を背景に、俊輔くんが私の額に軽くキス。
「俊輔くん…!?」
「恋人らしいこと、だろ?」
ニヤリと笑う俊輔くんに、私は顔を赤くして「もう、ずるい!」と叫んだ。
その後、俊輔くんは私のオタ活にも少しずつ興味を持ってくれるようになった。アニメの話をすると「ふーん、それ面白いのか?」なんて言いながら、ちゃんと聞いてくれる。
私たちのデートは自転車だけじゃなく、いろんな場所で、二人だけのペースで進んでいく。
「○○、次はどこに行く?」
俊輔くんの言葉に、私は心から笑顔で答える。
「何処でも、俊輔くんと一緒なら楽しいに決まってる!」