『いけないこと』パタン、とガラケーを閉じる音が静かな部屋に響く。夜10時を回ったばかり。ベッドに寝転がってマンガを読んでいた私の手元で、さっき届いたメールが頭を離れない。
送信者:一くん
件名:なし
「○○、今からコンビニ行かないか? 」
一くんからのメールはいつもこんな調子。そっけないけど、どこか私の心をくすぐる。付き合って数ヶ月経つけど、こういう突然の誘いにはまだ慣れない。ドキドキしながら、ガラケーのキーをカチカチ押して返信する。
「今? 遅いよ~!」
すぐに返事が来た。「遅いから楽しいんだよ。○○の顔見たいし。早く来て」
「…っ!」 最後の文に顔が熱くなる。一くん、こういうことサラッと言うからずるいんだから。急いで上着を羽織り、親にバレないよう静かに家を抜け出した。
コンビニの蛍光灯が、夜の住宅街でポツンと光ってる。駐車場の端に、一くんが自転車に寄りかかって立ってた。Tシャツ短パン姿に、ちょっと乱れた前髪。ガラケーの画面をいじりながら、こっちに気づくとニヤッと笑う。
「よ、○○。遅いぞ。」
「一くんが急に呼び出すから!」 私は頬を膨らませて抗議するけど、一くんは笑いながら私の頭をクシャッと撫でてくる。恋人になってから、こういうスキンシップが増えた。単純だけど、毎回胸がキュンとする。
店内に入ると、一くんはスナックコーナーに突進。お菓子を次々にカゴに放り込む。ポテチ、チョコバー、グミ…まるで部活の補給食を選ぶみたいに真剣だ。
「○○、これ食べるか? 新発売だって」 一くんがパッケージを見せてくる。
「こんな時間にドカ食いしたら、太っちゃうよ?」
「ハッ、チャリ漕げばすぐ消費するだろ。それにさ…」 一くんが急に顔を近づけて、悪ガキみたいな笑みを浮かべる。「いけないこと、しようよ。深夜のドカ食い、最高だろ?」
「一くんはほんとにもう!」 私は笑いながら一くんの腕を軽く叩く。でも、こういうノリが、一くんと一緒にいる時の楽しさなんだよね。
レジでお菓子を清算して、コンビニの外のベンチに並んで座る。夜風がひんやりしてるけど、一くんの肩がすぐそばにあるから、なんだか暖かい。袋を開ける音と、二人で笑い合う声が、静かな夜に響く。
「なあ、○○」 一くんがポテチをバリバリ食べながら、ふと言った。「こうやってお前と夜ふかしすんの、めっちゃ好き」
私はグミを口に放り込みながら、ちょっと照れて答える。「私も…一くんとこうやってるの、幸せだよ」
一くんは一瞬キョトンとして、すぐに照れ隠しみたいに笑う。「お、お前、急に可愛いこと言うなよ。…まあ、俺も同じだけどさ」
そう言って、一くんが私の手を握ってくる。ガサツだけど優しいその手に、胸がぎゅっと温かくなる。星がちらつく夜空の下、恋人同士の「いけないこと」は、ただのお菓子パーティーなのに、なんだか宝物みたいな時間だった。