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    kito_kabe

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    こめびつさんへ捧げた博多に行く白尾のお話です

    そうだ 博多に行こう もしかしたら俺はヒモかもしれない。
     白石由竹がはたと気付いたのは、いつものようにパチンコで自身の給金を使い果たし、同棲相手である尾形のマンションの部屋へと帰り、僅かながらの景品をテーブルの端へと並べて、尾形の手料理を食べていたときだった。日々料理スキルが上達している尾形の手料理はどこか懐かしい味がして、白石は好きだった。だからパチンコでどんなに大損をしても真っ直ぐ尾形の待っている家へと帰る。
     どんなに大損をしても。
     全財産がなくなっても。
    「仕方ねぇな」と尾形が冷たい視線と一緒にくれたお小遣いを使い果たしても。
     尾形は在宅ワークの生活なので基本家にいることが多い。そのため家事をほとんどこなしてくれている。ついでに言えば給金も尾形の方が多い。だからマンションの部屋代もほぼ尾形持ちだ。白石はそこに転がり込んでいる状態と言っても良い。
     もちろん白石だって働いている。町工場で溶接をこなし、右に出る者はいないほどの技術者だ。しかしその技術で稼いだ金は、ほとんどがジャラジャラとパチンコ玉と一緒に転がり消えていく。
    「今日もましな景品ないな。また無駄遣いしやがって」
    「ご、ごめん。でででで、でも尾形ちゃんが前に好きだって言ってたでしょ! チョコパイ特大セット!」
    「コンビニで買うほうが安いな」
    「そ、ソウダネ」
     ため息と共に落とされた尾形の心なし冷たい声に、白石は頬を引き攣らせた。

     え、もしかしなくても、俺ってヒモじゃね?

     一度浮かんでしまった考えは頭にこびりつき離れようとしない。
    「って感じのやつがいるんだけどさ、辺見ちゃんはどう思うよ」
     同僚である辺見に自分ということは伏せて、同棲相手との暮らしを説明したところ。うんうん、と頷きつつ話を聞いていた辺見は、菩薩のような慈愛に満ちた笑みを浮かべて言った。
    「救いようのない、ヒモですねぇ」
    「やっぱりっ!」
     他の人間に聞くことも考えたけれど、答えはわかりきっている。間違いなくヒモ認定だ。
     駄目だ、このままでは駄目だ。
     尾形に同棲を提案したのは白石だけれど、こんなヒモになるためではない。どこか希薄で今にも消えてしまいそうな尾形が放っておけなくて始まった関係も、いつしかその存在にこれまで抱いたことのない情が混じり、今では大切にしたいと心から思う唯一無二の存在だ。尾形も最初は頑なに心を許そうとしなかったものの、近頃は二人でいることが当たり前といった空気を纏ってくれるようになってきた。
     シーツの波に溺れる最中、極稀に落とされる柔い心の吐露は白石にとっての幸福であり、宝でもある。
     そんな尾形に見捨てられては、白石由竹という人間の何かが間違いなく壊れる。
    でもこのままではヒモルート一直線。その先に訪れるのは破滅だ。
     こうなったら生活改善からだ、と仕事帰りにパチンコに行かずに真っ直ぐ帰ったところ。
    「……。……俺に、飽きたのか?」
    「どういう考えから発展してその結論に達したのか、一つ一つ教えてね。尾形ちゃん」
     尾形の中での白石は、既にヒモ扱いだったらしい。そしてヒモではない白石は、いとも簡単に尾形を見捨てる薄情者のようだ。
    「俺の尾形ちゃんへの愛は本物だから!」
    「ははぁっ、愛なぁ」
     これは全然伝わってない。しょんぼりと項垂れる白石を尻目に、尾形はテレビの旅番組をぼんやりと見つめていた。楽しげに海外を満喫する芸能人の姿は、いまは恨めしくて仕方ない。そんな心の余裕、今の白石にはないのだ。
    「って、そうか。これだっ」
    「なんだ、浮気か」
    「違いますっ!」
     同棲をスタートしてはや数年。デートのようなものはすれど、遠出にいったことはなかった。
    「ってことで、二人っきりで旅行に行こうよ。尾形ちゃん」
    「なんでだ。面倒くさいから嫌だ」
    「旅先はどこにしようかなー」
    「おい聞け」

     かくして以前に尾形が「本場のモツ鍋が食べたい」という言葉を覚えていた白石の提案により博多への旅行が決まったのだ。
     そして初日、白石は財布を落とした。
    「ぅ、ううう、俺の、男らしい、とこを、見せようとしたのに……」
     この旅のためにパチンコを絶ち、金を貯め続けていた白石だが旅のスタートである駅で財布の紛失に気付いた。しかし既に目的地である博多。男らしさを見せようと張り切っていただけに、ショックも尚更だ。
     ぐすんと鼻をすすりながら食べるとんこつラーメンはスープから絶品だった。
    「別に金の出処なんざ同じ家に住んでるんだから一緒だろ」
    「それもそうだけどね。尾形ちゃんに頼りっぱなしなとこを直したいという俺の気持ちの問題で」
    「くだらねえな」
    「ひどぃぃ」
     ズルズルと麺をすすり、替え玉を注文してから白石は、こういうところだぞ、俺。と項垂れる。
     まるで尾形にカッコいいとこを見せれていない。これではいつもと変わりないではないか。
    「お前がダラシなくて、金遣いがあらくて、ちゃらんぽらんでなくなったら何が残る」
    「尾形さん? 俺、一応彼氏だよね、ね?」
    「白石由竹はそのままでいいんだよ」
    「……え」
     思わず横を向くとホカホカと湯気立つラーメンをちまちまと数本ずつ食べる尾形が見えた。その耳が仄かに赤く色付いているように見えるのはきっと気の所為ではない。

     旅はまだ始まったばかり。けれど白石由竹は既に満ち足りた気持ちだった。
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