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    koimari

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    ヘジェ。某映画手錠のシーンのパロディ(?)

     恋人が自宅内で手錠で繋がれていたとき、どういう反応をとるのが正解なのだろうか。なお手錠はピンク色のふわふわとした毛におおわれており、事件性はないものとする。

    「ジェハンさん、どうしたんですか」
     ヘヨンの恋人イ・ジェハンは、彼自身が長年暮らした自宅内の、ヘヨンにあてがわれた一室の片隅で、百八十センチを超える大きな体躯を縮こまらせるようにしてうずくまっていた。体調不良か事件かと焦ったのも束の間、隠すようにしている彼の片方の手首がふわふわの手錠に拘束されていることに気付き、ヘヨンは「は?」と間抜けな声をあげた。手錠の先は備え付けの戸棚の取手と繋がれている。本物ならともかく、チープな玩具であれば壊して脱出することもできそうなものだが、棚の取手か扉が犠牲になるだろう。物音にジェハンさんの父親が訪室したり、理由を説明することになるのは避けたいということだろうか。それでもヘヨンが帰ってくる前になんとかしようと苦心したようで、彼のまわりにはコートや衣服、タオルなど、手錠の鍵を開けるにはおよそ役に立たなさそうなものが散らばっていた。残念ながら、整理整頓の行き届いたヘヨンの部屋で開錠に役立ちそうなものは反対側にある机の中だ。
    「勘違いするな。これは、テストをして……、いや、無線が……」
     いいから机の上の鍵を取ってくれ、と言い訳を放棄した恋人の顔を見る。顔を背けていてもくりんと巻いた髪のせいで、ほんのり染まった頬は隠しきれていない。雑にタオルドライをしただけの湿った髪と、淡いグレーのスウェット姿で、見るからに風呂上がりの様子だ。水分の残り具合から察するに、誤って拘束してしまってからそう時間は経ってなさそうだとあたりをつける。身綺麗にしてヘヨンの帰宅を待ついじらしさに、状況にそぐわないが胸が暖かくなる。ジェハンさんもヘヨンとの逢瀬が楽しみで、こんな奇行に走ったのかもだなんて、都合のいい想定をしてしまうがさして間違っていないだろう。動かないヘヨンに焦れたように、早く寄越せと大きな手が忙しなく動いている。
    「投げてくれればいい、から」
    「片手で受け取れなかったら面倒でしょう」
     おもちゃのような小さな鍵を摘み上げ、ジェハンさんに向き直ると、怯えたように身を強張らせる。一歩一歩ヘヨンが近づくたびに少ない行動範囲いっぱいにじわりと逃げをうつが、それも大して動けていない。決してやましい気持ちはなかったはずなのに、狩猟本能のような被虐心に火をつけていることに、彼は気づいているんだろうか。「自分で買ったんですか」と尋ねると、黙秘のままでは解放されないことを悟り、小さく首を縦に振った。温かい手を取り、錠前の鍵を回すと、呆気なくカチリと音を立てて外れる。怪我をしたりあざになったりはなさそうだ。
    「ジェハンさん、僕に掛けようとしていたんですか?」
     ひどいな、と口角を上げると、露骨に怯えたような顔をする。ぽたりと乾ききらない髪から水が滴り、ヘヨン自身はシャワーをしていないことを思い出した。
    「ベッドで待っていてくださいね」
     今のように片手をベッドのヘッドボードに拘束してもいいし、手錠で繋がれた両手を背に回してもらうのもしたことがない。なにせそういった道具を使うのは初めてのことだから、勝手がわからない。手足を一本ずつ拘束するのは流石にだめだろうな。ジェハンさんもきついだろうし。「本当に、す、するのか?」と、自分で準備しておいて動揺するジェハンさんに目元だけで微笑む。
    「やっぱり好きなのか……」
     誤解があったようだが、訂正はいらないだろう。たったいま事実になったので。
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