全世界数百億人のファンの皆さんこんにちは! 昏見有貴こと、昏見有貴です!
本日は所縁くんとお洒落なカフェでデート中です。急に「お前が好きそうなカフェあった。行く?」なんて聞くからどうしたのかと思いましたが、本当に素敵なカフェだったので有貴も大満足! 美味しいコーヒーを飲みながらも笑みが止まりません。
けれど一つ問題がありました。
「このお店、よく知ってましたね」
「あ? ゃ、ああ、うん、なんかたまたま見かけて好きそうだなーって」
ケーキとコーヒーが七割ほど減ったあたりで明らかに所縁くんが挙動不審になったのです。
「………ふぅーーー……」
……いえ、たしかにお店に入る頃から口数は少なかったのですが、流石にここまでになると見過ごすことはできません。フゥーじゃないんですよ、こんなゆったりした素敵なカフェでケーキ食べて、試合前みたいな呼吸したら駄目でしょう。
なんだか所縁くんはハチャメチャに緊張しているようです。そんな人が目の前にいると、流石の私でもフルーツケーキの味がわからなくなってきちゃいます。困っちゃいます。
「あの〜、所縁くん?」
「………………なんだよ」
三点リーダましまし態度辛めの所縁くんが緊張のあまりか私を睨んできます。こわい。泣いちゃうかも……。
「申し訳ないんですけど、プロポーズならまた今度にしていただけませんか? あんまり緊張されると、私も怖くなってきちゃうので……」
「お前それ気付いても言うなよ、俺この状況ではいそうですかって引けないだろ!」
「まあまあ、また今度、落ち着いてからにしましょうよ。断りませんから」
「ネタバレすんなよ!」
所縁くんが怒ってしまいました。怖いですね。でも八割は照れ隠しでしょう。可愛いですね。
「いやこうなったら意地でも指輪渡すからな、おい待ってろよ。……………あれ…………」
ポケットを探って怪訝な顔をする彼に、私は正直に謝罪します。
「すみません、『プロポーズするわけでもないのに持ち歩かれている婚約指輪』って価値がないかなと思って……盗んじゃいました」
「予告状出せよ、盗むなよ、いつから気付いてたんだよ……!」
「えー? 質問は一個ずつにしてください」
「いいから指輪返せ」
仏頂面の所縁くんが私に手を伸ばしてきます。指輪を渡せなんて、プロポーズをねだられているみたいでドキドキしちゃいますね!
「どうせならロマンチックに仕切り直しましょうよ。所縁くんが万全の準備でプロポーズに臨んだら、その時に返してあげますから」
「もうめちゃくちゃじゃねーか……」
脱力した所縁くんが頭を抱えます。納得はしてないようですが、今のところは指輪を諦めたようです。
「私が指輪を盗んでも緊張のあまり気が付かないなんて、本当にぽんこつになっちゃいましたね。このままだと可愛いだけが取り柄になっちゃいますよ」
「ぬかせ」
所縁くんは不機嫌そうな顔のまま、コーヒーを飲みました。そして私に指をつきつけます。
「お前から指輪を取り返して予想外のタイミングでプロポーズしてやるからな、見てろよ」
好戦的な光を宿して私を睨む瞳に、思わずときめいてしまいました。不覚。有貴まだまだ修行が足りません。