「出逢って数年の男にそこまで執着できるって、愛がでかいっすね~」
軽薄な口調で巡が笑った。昏見の怒りを煽っていることを自覚しながら、なるべく無神経に見えるように。
「そうですね、この私の地球より大きい〜BIG LOVE〜をわかっていただけて嬉しいです。私たち、実はとっても気が合うんでしょうか?」
昏見はお返しのように麗しく笑って見せた。二人の男は笑みを交わし合う。
「じゃ俺たち、魂の兄弟……ソウルブラザーズってことで! お近づきの記念にご飯でもどうです? 良い感じのお店あるんですよ、ワインも出る所」
「ええ、もちろん。素敵ですね! 私の追い求める伝説のワインもあるかもしれません」
「いやぁ、こんな所には無いんじゃないかな? 昏見さんがなに求めてんのかいまいち分かんないですけど、ふつーの範囲の酒しかないですよー」
「栄柴くんは地元ですもんね。この辺はやっぱりホームグラウンドですか」
「そうですよ。俺の愛も執着も呪いも、ここで俺と一緒に、生まれた時からコツコツ育まれてきたんです」
「へえ」
「昏見さんもそうでしょう? 生まれつきの化身持ちが、呪いと縁から逃れて自我とか形成できませんもんね」
その質問は牽制だったのかもしれないし、祈りや希望だったのかもしれない。探りつつ手を伸ばしてくるような質問を、けれど昏見は軽く振り払った。
「いいえ? 私はのんびりのびのび暮らしましたよ。私の周りにダース単位どころか十二ダース=一グロス単位で存在していた化身持ちたちもみんなそうでした。笑ったり泣いたりしながら健全に、世界への愛を育んでいました」
夜叉の目が灯す光の名前を昏見はよく知っていた。本来は昏見に向けられないはずの激情の炎が、静かに迫ってきていることもよく分かっていた。文字通り飛び火ですね、なんて思いながら。