ほた太郎〜橋内和物語〜昔むかし、あるところに声の大きなおじいさんと口は悪いけれど面倒見の良いおばあさんが住んでいました。
ある日おじいさんは山へ芝刈りへ、おばあさんは川へ洗濯に行くことになりました。
「ばぁぁぁぁんんん!!!山に行ってくる!すぐ帰って来るからな!!!」
「あ?煩いんでさっさと行って下さい。俺は洗濯でもしてきます。」
おばあさんが川でおじいさんの褌を洗っていると川上からどんぶらこ。どんぶらこ。大きな桃が流れてきました。
桃は蛍の尻のように中が光っていました。
怪しく思ったおばあさんは桃を拾うか凄く悩みましたが、おじいさんがいつも
―伴の尻はたまらないなぁ。まるで桃のようだ。―と毎晩撫で回し面倒なのでこの大きな桃を渡すことにしました。
「ばぁぁぁぁんん♡」
「うるさ。」
家の扉を開くと先に帰っていたおじいさんが飛びついてきましたが、おばあさんは気にする素振りもなく避けました。そして扉から外へ飛び出したおじいさんへ桃を投げました。
「これでも撫でてろっ!!――へ?」
するとなんという事でしょう。
おばあさんの投げた豪速球の桃がおじいさんの額にクリーンヒットした途端、中から赤ん坊が出てきました。
おばあさんは慌てて赤ん坊を抱きかかえました。
「泣きもしねぇ……これ本当にガキか?」
「伴!それはもしや俺の子か?いつの間にはら―ぶふぇ!」
煩いおじいさんの口に桃の欠片を詰め込みおばあさんはまじまじと赤ん坊を見ました。
それぞれ形の整った顔のパーツに意思の強そうな眉、体格もどことなくどっしりとしています。
「……よし。お前はほた太r「はしうちかなう。」……え?喋った?」
おばあさんが赤ん坊に名付けをしようと思った途端、赤ん坊は自ら名を名乗りました。
おばあさんは奇妙に思いつつも赤ん坊を世話することにしました。今更世話をする対象が一人増えても気にならなかったからです。
3日もするとほた太郎もとい橋内和は立派な青年になりました。
5日目の朝、和は改まっておじいさんおばあさんに告げました。
「俺はこの世界へ鬼を退治するために産まれてきた。原トリと共に世界を救ってみせる。」
「男なら鬼の1匹くらいは倒さねぇとな。行って来い。原トリは……まぁ連れて行け、腹の足しにはなるだろ。」
「行け行け。伴と俺の家から出ていけ。これで2人っきりだなば……げふッ!」
おばあさんはあっさりと、和と家にいるニワトリの旅立ちを了承しました。おじいさんはとても嬉しそうにおばあさんの尻を撫でに行き殴られました。
そしてその日からおばあさんには体術を、おじいさんには剣術を習った和は、桃から産まれて10日目に旅立つ事にしました。
ニワトリの原トリはお供兼食料として連れて一緒に旅立つことになりました。
家がある山から降りると野原に出ました。
道の真ん中に1匹の猿が空腹で倒れていました。
「おい……こんな所で倒れるな。邪魔だ。」
いつも原トリとはにこやかに話す和ですが、この時は猿を足でつついて起こそうとしました。
「てめ!もう少し優しく出来ないのか!?」
「ほう。ウキと語尾につかないんだな。」
「……この野郎。舐めてると痛い目を見るぞ。俺とあの木まで競争しろ!俺が買ったら食いもん全部置いてけ!」
「あとで泣きべそかくなよ。俺が勝ったら鬼退治についてこい。」
こうして和と猿の八木は原トリを賭けて勝負をすることになりました。
結果は和が圧勝でした。おじいさんの嫌がらせで、ランニングを毎日していたので走ることは得意でした。
「……ハァ。ハァ。お前化物かよ。」
「お前が遅いだけだ。」
こうして気軽に話が出来る八木が仲間に加わりさらに旅を続けることになりました。
途中、あまりに八木の腹が鳴るので見かけた茶屋で休むことにしました。
そこには親を支える沢山の子供たちがお手伝いとして働いていました。
「まだ幼いのに手伝いをして偉いな。」
「ありがとう、かっこいい兄ちゃん!実は私にも兄ちゃんがいるんだけど……」
茶屋の娘、ナツコは寂しそうに兄が鬼ヶ島に出かけたまま帰ってこない事を話しました。
悲しそうなナツコの頭を優しく撫で和は言いました。
「安心しろ。必ず俺が鬼を退治して兄ちゃんを連れ戻す。」
「ちょ。お前なんだよ!」
「あの!俺、貴方と一緒に行きたいです!!」
ナツコと和が話している間に店の看板犬、志津摩が八木の事を気に入り鬼退治の仲間に志願していました。
八木は口では嫌そうにしていましたが、まんざらでもなさそうだったので、志津摩の真剣な眼差しと仲間になれば八木の面白そうな姿が見られると思い快く受け入れました。
こうして1人と3匹は茶屋の兄妹たちに見送られ鬼ヶ島を目指しました。
鬼ヶ島は海を渡った先にありました。
どう渡ろうか困っていると、首に紫のマフラーを巻いた3人組が船を出してくれ無事に鬼ヶ島へ上陸することが出来ました。
船を出してくれた3人に手を振り和一行は歩き始めました。
遠目には小さく見えた鬼ヶ島でしたが実際は広く鬼を探すのも苦労しそうだと思っていました。
「……なんかここ兎が多いですね。においもたくさんします!」
「あ!シロクロ待てー!」
志津摩の言うとうり島に上陸してからというもの兎をたくさん見かけました。ほとんどの兎が茶色でしたが、白と黒に模様の分かれた兎が林から飛び出してきました。
そしてその後ろから和の腰程度の身長の子供が飛び出して来たのです。
その子供の頭には小さな角が1つついていました。
和はすぐさま刀を抜きましたが、目の前に現れた小鬼は不思議そうな顔をしています。
和も困って刀を下ろした所でさらに林から小鬼が現れました。
「フユ。急に走っては危ないですよ。……あれ?この方達は?」
「タロ兄ちゃんの友達かな?」
白と黒の兎と共に小鬼達はコソコソと話をして何かを決めたのかこちらに向き直り、一番近くにいた原トリの手を引いて歩き出しました。
「?!?!」
「……おい。これ大丈夫か?」
「知らん。少なくともお前以外なら守り切る自信がある。」
しばらく後をついて進むと小さな集落へたどり着きました。
そこには他の小鬼達と人間の青年が1人屈んで何やら作業をしていました。
「タロ兄ちゃん!お友達連れてきたよ!!」
「え?……あれ?どなたですか?」
「ぅッ!」
フユと呼ばれた小鬼が青年に駆け寄り背中に抱きつきました。
人間の青年は友達と言われ不思議そうに振り返りました。
和は青年をひと目見て胸を抑えその場にしゃがみ込みます。
咄嗟のことに八木と志津摩は和の前で構えます。
「わわわっ!ちょっと待ってください!皆さん誤解してます!」
「おーい。騒がしいな何してんだ?」
「あ!ヒソーチョ!」
青年が慌ててどう説明したものか悩んでいると奥の方からサングラスをかけた小鬼がやってきました。
「お前が悪の親玉っぽいな!」
「わーー!八木さんかっこいい!やっつけましょう!」
「……親玉?何のことだ?」
「ヒソーチョここは下がってて下さい。」
八木と小鬼の中でも少し背の高い鬼が睨み合い、一種即発するかと思った所で青年が間に入りました。
「ストーーーップ!!!この鬼達は悪さはしてません!俺は飛行機を直してただけなんです!」
青年は機械いじりが得意で桜マークがついた鬼の飛行機を直すためにここに留まっていました。
しかし工具が足りず困っていた所に和たちがやってきたのです。
ここでようやく胸を押さえ蹲っていた和が青年に訪ねます。
「俺達は君を助けに来たんだ。君が助けるなら俺も小鬼たちを助けよう。」
青年の手を取り熱心に話しかける和の腰についたものを見て青年が叫びます。
「あーーー!金槌!これ!この道具が欲しかったんです!」
和から受け取った金槌を嬉しそうに持って青年は機械いじりに戻りました。
3日ほど経った頃ようやく青年は額を拭いフラフラになりながら立ち上がりました。
「完成……しました……。」
小鬼達は大喜びで青年に礼を良い、それぞれの宝物を青年の前に並べ飛行機へ乗り込みます。
「ありがとうなー!」
「タロ兄ちゃんありがとーーー!」
大きな声を出しながら小鬼達を乗せた飛行機は飛び立って行きました。
そこから青年の意識が途絶え次に起きた時に隣にいたのは和でした。
「あの。俺、塚本太郎といいます。金槌ありがとうござ「起きたな、行くぞ。」へ?…あのどこへ?」
「もちろんご両親へ祝言のあいさつだ!」
「えええええ?!」
実は3日3晩飛行機を直し続けた太郎は、倒れる直前に和にぶつかりあろうことか接吻をしていました。もちろん太郎は覚えていません。
しかし目の前の和が嘘をついているとも思えませんでした。
「わかりました。よろしくお願いします!」
覚悟をキメた太郎を連れ和は小鬼の残した飛行機に乗り込み島を後にします。
そして茶屋に戻り太郎の兄弟と共に小鬼のくれた宝物のイッシキクワガタをモチーフにしたクワガタ団子を名物にし、べらぼうに飛行機の運転が上手い和は輸送サービスも行いながら幸せに暮らしました。
〜原トリはそのころ〜
「ッあんのやろーー!置いていきやがったな!!!」
「八木さんと2人きり!はわわ!どうしよう!」
飛行機は二人乗りだったためハネムーンに向かった和に寝ている間に置いていかれた八木は怒って海岸で叫び、志津摩は突然のことに頬を染めていました。
「(……帰りたいなぁ)トリ」
そんな2人を海岸の端から眺めながら原トリは一羽で快適なおばあさんの家を思い出していました。
めでたしめでたし?