二度と会えないと思ってた話▽
10代の頃の兄弟の溝は20代を迎え鳴りを潜め和解と言えば良いのか分からないがお互い決着を着ける事が出来た。
そうして凛と俺の間に残ったのはお互いへ向けている火より熱い感情だけだった。
凛も俺もそれを持て余して、それをサッカーで発散できてた頃はまだ良かったがある年凛が怪我をしてからはその熱の発散先に困ってしまったそうだ。
そう思ってたある日凛が松葉杖で俺の家にやって来た。
何しに来た、俺はそう尋ねたと思う。
一緒に居てよ、あいつはそう言った。
しょうがねえな、玄関先で俺はそう返した。
そこからはもう10代の仲の悪さはなんだったんだよという位俺達は一緒にいた。
飯も、風呂も、寝る時も一緒にいたらそういう感情が沸いてそういう関係にもなった。
20代はあっという間に過ぎていった。それでも俺たちは一緒にいた。
30代、その年で凛は引退を決めた。
40代、未だに現役の俺が世間から何を言われているか。聞こえないふりをした。
それなのにある朝凛が荷物を抱えドアの前に立っていた。
「ごめん、俺が耐えられない」
そう言って凛は俺の元から去っていった。
ふざけるなと、手を掴もうとした、確かに掴もうとしたのに俺はシャツの袖を握っていて、だから凛がドアを開けて出ていくのを見つめていただけだった。
それが俺たちの最後の言葉になるなんて、思ってなかった。
それから数年後のある日
一通の手紙が届いた。
凛の葬式の報せだった。
「朝おきてこなかったから起こしに行ったら…」
そう言って涙を拭う女は凛と共に住んでいた女だと言う。
あの時手を、手を掴んでいたら凛は死ななかったのか。
もう何も分からない。
どうでも良い。
もう俺の隣に凛が戻る事は無い。
永遠に空席だ。
それだけは分かった。
▽
その夜冴は夢を見たのです。
凛が目の前に居ます。
その姿は幼い、子供頃の凛です。
「…手短に言うけどこっち肌寒いから来る時は羽織一枚持って来た方が良いよ」
腕を摩る動作をし凛は笑って言います。
「…んな事言う為に………分かった教えてくれてありがとう…」
冴は自分が着ていた上着を脱ぎ凛に投げ渡します。
わっぷ、と顔にぶつけつつもありがとう、返事をし凛はその上着を受け取ります。
すぐに着たのを見ると本当に寒いのでしょう。
上着を着た凛は暫く気まずそうな顔をし、口を開きます。
「あのさ、あんま早く来るなよ」
その言葉に冴は驚いて目を見開きます。
唇が何か言葉を発そうとしますが、冴は目を閉じ
「…あぁ分かった」
そう返事をしました。
「待っててやるからゆっくり来なよ」
そう言って凛は消えていった。
冴が瞼を開けるとそこは見知った冴の部屋でした。
「…面倒な弟だ」
冴は天井に吊され切れたロープと倒れた椅子に目を向けて声を出した。
終わり
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凛が去る時、冴は心の中であぁこれで面倒な記者の対応も泣く両親の姿が夢に出る事も無いんだなと自分だけならまだしも、心の底から愛してる凛にもう同じ苦しみを味わわせたくないという気持ちと酷く安堵してしまった自分の心の存在に気付くのです。
なので戻ってこいと手を伸ばす事が出来なかった。
周りがなんだ勝手に言わせておけばいいそう言って連れ帰る事も出来なかった。
何処か遠くへ、うんと遠く世界の端へ2人だけで逃げるなんて事も出来なかった。
だけれども、だけれども、葬式に行ってみればなんだ。
冴はこの世で愛せる相手は凛だけだったのに、凛は冴意外を愛せたのかと酷くショックだったのです。悔しい。悲しい。こんな事なら、そう思ってももう遅いのです。手遅れだ。
お前も居ないこの世に未練なんぞ、そう思って冴はロープを買ったのです。
壁に掛けたのです。紐を輪に結んだのです。椅子を置いたのです。首に縄を回したのです。
なのに。
それなのにお前は、どうして。どうしてそんな事を。
酷い酷い。
そんな話。