一生言えない話。▼
寂寞(せきばく)
心が満たされず寂しいこと。ものさびしく静まっていること。
チクタクと時計の音が響く。
凛はそわそわと客が来る事を待ち望んでいた。
そうして居るとピンポーンとチャイムの音が響く。
凛は音を聞いた瞬間に速足で玄関を開けた。
「よく来たな」
笑顔の凛の出迎えた先には糸師冴と潔世一が立っていた。
「お邪魔しま~す…」
「…久しぶりだな」
そう言いながら冴と潔は凛の一人暮らししている家に上がった。
通された凛の家はこじんまりとしつつも本人の身長を考慮して広い空間で家具も落ち着いた色合いでまとまった印象を受ける部屋だった。
「珈琲で良いか?」
そう尋ねた凛に2人共同意をし豆を挽く音が聞こえ潔はそういう事するんだなと何の気なしに声を掛けた。近所の喫茶店の店主のおすすめの豆だそうだ。
「実はケーキも作った」
近所の人から林檎を沢山貰ったからと嬉しそうに話しながら珈琲を運んできた凛だったが冴が見つめているのに気づくと
「あ、でも食べない…よな…?」
と凛は少し残念そうな顔をした。
それに冴が
「いや、食べる…別に夜に調整すれば何てこと無い」
そう言えば凛は見るからに嬉しそうな顔をして「すぐ用意する!」と台所へ向かった。
そうして話をしていると凛の部屋の時計が夕方を告げる音を立てた。
「あっ…じゃあそろそろ俺等帰るな」潔が告げる。
「じゃあな」
「ケーキと珈琲ありがとうな、凛」
玄関で良いと告げる。
「あぁ、ま…えっと…今日は来てくれてありがとう」
凛はたどたどしく言葉を告げた。言いたい言葉を飲み込んでいる時の癖で指先をキュッ、と握っている手を見た冴がやれやれとため息を吐きながら告げた。
「……また来るからな」
「…!うん」
「お、俺も来るからな!」
「あぁ、待ってる、また来い」
そうして凛はヒラヒラと手を振って冴と潔を見送ったのであった。
並んで歩く道で潔は冴に尋ねた。
「なぁ、冴…凛の家の中見た?」
「…なんの話だよ」
「サッカー関連の物なんも無かったな」
「あぁ、そうだな」
「俺さ、凛ってサッカー以外する事なくて今急に引退しちゃって困ってるかと思ってた…」
「…そうか」
「サッカー以外やること分かんなくて、てっきり…てっきりさ、バツの悪い顔して何したら良いのか困ったからとか言って、結局凛は復帰してさ、また…」
「止めろ」
潔の絶対に無い話を、訪れない想像の話を冴が止めた。
潔は驚いた。冴の自分を止めた声が幼い子供の様だったからだ。
「……俺もだけど冴の近くに居なくても凛は生きていけるんだな」
「……そうだろ」
そう言葉を締めくくり星の輝く空に目もくれず、寂寞の思いを抱え、2人は無言で帰り道を歩いた。
胸にある言葉を言ってはいけないと思ったから。
本当は、出迎えてくれた凛の笑顔にほっとしたと同時にその笑顔が悔しくて憎くて、そう思う自分の心に爪を立てて掻きむしりたくなったなんて。