With COVID-19 時代の精神科医療
一般財団法人仁明会 理事長 森村安史
With COVID-19 の時代となり人前ではマスク着用がマナーとなり、多人数が集まるイベントは無くなり、 会議も WEB で行うのが当たり前になった。初めのうちは会議も移動しなくて参加するのも楽になった、無 駄な宴会で色々気を遣う会話で疲れることも無くなった、面倒な人付きあいも減って楽になったなど、意外 と過ごし易い世界かもしれないと思っていた。移動するストレス、対人緊張によるストレス、飲酒による身 体的ストレスなどから解放され、ずいぶん楽に生きられるではないかと感じていた時期もあった。無駄な会 議、無駄な人間関係、無駄な会食がなくなり、一種の断捨離を実行することができていた。しかし一年以上 にわたってこの生活が続くと次第に物足りなさを感じるようになってきた。時々は病院から離れて別の場所 に行きそこで普段会わない方々と顔を合わせることも、一方では私自身の気分転換になっていたのかもしれ ないと気が付かされた。学会や講演会などに参加することは、久しぶりに会う仲間と旧交を温め、お互いの 無事を確認し、懐かしいひとときを過ごす時間でもあった。改めて無駄が人生にとっていかに大切であるか を思い出させてくれた。
マスク社会は人の表情を隠してしまう。顔も知らない同級生や同僚などが大勢いるという異常性にも慣れ てくるのだろうか。原理的イスラム教徒の女性が男性の前ではブルカやニカーブと呼ばれる伝統的な衣裳で 顔を隠しているのに慣れてしまうように、我々もこの日常に慣れていくのが with COVID の世界なのだろ うかと危惧も感じてしまう。もしこのような WEB 診療やマスク姿が日常の風景となっていくと、精神科診 療にも変化が起きてくるのであろうか。表情や医者・患者間に存在する緊張感などといった、簡単には表現 できない空気感などを感じることなく診察を進めるのがこれからの精神科診療になってくるのだろうか。 シンギュラリティーという言葉が流行し、AI が人間を超える日がすぐそこにきていると騒がれていた頃 には、遠隔地におけるリモート診療は当たり前になり、もしかしたら精神療法でさえもロボット診療が可能 になるのではないか、という空想世界を思い描いていた。しかし実際にリモートによる時間を共有する機会 を体験してみると、やはり人と人の触れ合いが無いところには、心の通った医療はできないのだと、当たり 前のことを思い出すことになってしまった。訴えを何時間でも受容的に聞きつづけることはロボットにとっ て苦痛ではなかろう。孤独な方の心の慰みとして AI を活用する手段はあると思われるが、生身の人間を相 手に話をする緊張感や相手に対する思いなど、患者が治療者に対して見せる転移感情まではロボットでは受 け取れないと思う。
政府はこれを機会に遠隔地へのリモート診察をより広めようとしている。相手がロボットであるという世 界はまだこれからであるとして、WEB を介した遠隔診療はすぐに始めることができる。通院が困難な方に とってはこれも一つの手段であるとは思うが、医者・患者間に存在する空気が感じられない今の WEB シス テムでは限界があるのだろう。積極的に精神科臨床の中に取り入れていくことはまだまだハードルもありそ うだ。しかし一時的には今のシステムであっても、医療が届きにくい地域へのサービスとしては有効な時も あるだろう。仮想現実が更にリアルに表現できる世界が来る時には、