こもりうた「あなたも動けなくなるのね。世界にはまだまだ不思議が残っていたみたい」
僅かに弾む息を無理に整え、いつものようにおどけた口調で私のシワだらけの手を取るのは、いつまで経っても変わらない若々しい手。
ふと、この手を握ったのは何回あっただろうかとこれまでの記憶を掘り起こす。
孫が勧める席には座ろうとはせず、立ったまま彼女は私の手を握る。
彼女とは長い付き合いだ。出会ってもう七十年は経つだろう。そう思うと私も長く生きた。
彼女には及ばないが。
「ふっ」
「何よ、おかしなこと言ってないと思うけど?」
どれだけ取り繕っても、その声に僅かな震えが含まれている事くらい読み取れる。
多分……彼女も、私がそれに気がついていることを分かっている。
「最強の暗殺者でも寿命には勝てなかったかー……」
「そうだね」
「………よかった」
握ったままの手で、彼女は私の手の甲のシワをなぞるように指でさすった。
「あんたも普通の人間だ」
強く握られた手が反射的に彼女の手を握り返す。
「ひどい顔、不老不死の魔女が聞いて呆れる」
「あーごめん、私もまだ若いね」
「じゃあ私はまだ赤ちゃんね」
ニッと笑った彼女の顔は、涙の跡はあれど自然だった。
「あーあ……安心したら眠くなってきた」
「そっか」
彼女は私の顔を覗き込む。
やっぱり綺麗だ…
好きだったな…この髪も……声も
彼方には薬草のかおり
たびじのとなりにいつもいた
あなたはそう
こもりうただ
「蘭、おやすみ」