「ちょっと……聞いてないんすけど」
「いや、さすがに俺っちも聞いてねンだわ……」
民族的な紋様を刺繍した壁掛けが彩る室内は電灯が無いため薄暗く、遠くに聴こえる慌ただしい空気が伝わって現実感を更に薄れさせている。電気自体は故郷の敷地付近まで通ってはいたが最近まで利用しておらず、燐音がリモートで君主業を行うために一部開通させたばかりだ。しかしそれも極一部で、現時点では会議などで利用していた広い部屋にのみ『テレビ』と『タブレット』が置かれている。
そのタブレットを用いて燐音が故郷の者と会話をしたのが一週間ほど前。元気な姿を確認できて嬉しいが、機械越しではなく実際に会って話しをしたいと世話になっていた者たちに懇願され、燐音は一度帰郷することを決めていた。
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