Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ろっこ

    @hyk_rkk

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    ろっこ

    ☆quiet follow

    故郷話まだあるんだぁ……(自分でも知らんかった)
    表現がかぶってたりするから、どっちのパターンで仕上げようかな~だったんだと思う

    「ちょっと……聞いてないんすけど」
    「いや、さすがに俺っちも聞いてねンだわ……」

     民族的な紋様を刺繍した壁掛けが彩る室内は電灯が無いため薄暗く、遠くに聴こえる慌ただしい空気が伝わって現実感を更に薄れさせている。電気自体は故郷の敷地付近まで通ってはいたが最近まで利用しておらず、燐音がリモートで君主業を行うために一部開通させたばかりだ。しかしそれも極一部で、現時点では会議などで利用していた広い部屋にのみ『テレビ』と『タブレット』が置かれている。
     そのタブレットを用いて燐音が故郷の者と会話をしたのが一週間ほど前。元気な姿を確認できて嬉しいが、機械越しではなく実際に会って話しをしたいと世話になっていた者たちに懇願され、燐音は一度帰郷することを決めていた。
     そしてそのためにスケジュールの調整をして数日留守にすることをメンバーに告げると「僕もついて行っちゃダメっすか!?」と尻尾髪を揺らしながら声を上げたのがニキだった。
     ニキの主張はこうだ。『元々共に故郷へ行き、養ってもらう約束だったのだから移住の権利はまだ所持している。今回はその下見である。未知の料理や食材に触れ、移住する際に持ち込む調理器具や調味料などを選ぶためである。』
     それはあの日、弱り果てて甘い誘惑に乗ってしまった燐音の撒いた種ではある。負けて全てを失って故郷へと帰るはずだったが、たった一つだけ手の中に残っていたものがついてくると言ってきたのだ。そうしたいからするだけだと言われ、それならば己がきちんと責任を取れば一つくらいは持ち帰っても許されるのではないかと燐音の心の奥に隠された弱さと未練が差し出されたニキの手を取ってしまったのだ。
     結局それは叶わず、色んな者の手によってまるで絵空事のような光溢れる道へと連れて行かれたわけだが、まだニキが諦めていなかったことには燐音も少々驚いた。本来は同胞以外は立ち入ることはできず、都会からの異物はよく思われないだろうからやめておけと言うも「ついていく」と譲らないため燐音が折れる形となった。
     そして、故郷を出てからずっと衣食住の面倒を見てくれていた命の恩人でありCrazy:Bというユニットの『同胞』であるニキを連れて行くことをリモートで告げたのが数日前。故郷の者たちも初めは戸惑いこそしたが、燐音の恩人であるニキをもてなしたいと言ってくれたため共に帰郷することになった、のだが。

    「こんぎ、って結婚のことっすよね? 何で僕はいきなり燐音くんと結婚することになってんすか!?」
    「知らねェって。マジで俺っちは無関係。命の恩人を連れて行くって言っただけだぜ!?」
     室内には二人きりだが、自然と小さくなった声でこそこそと目の前に起こっている現状について話し合うも、燐音ですらどうしてこうなっているのかがわからない。
     燐音と共に故郷の地を踏み、物陰のあちらこちらから見られていることはニキも気付いていた。それは排他的な厳しい目線ではなく、どちらかというと初めて『外』の人間を見たことによる興味が強かったように思う。燐音が心配していたほど余所者に対して警戒心を表に出す者もおらず、お茶を出していた若い女性にいたってはニキに「ありがとう」と言われ頬を染めていたほどだ。
    「最初は普通に恩人をもてなす~みたいな感じだったと思うンだけどよ……なんかだんだん変な方向に話が向かってンだよな」
    「ずっと二人で一緒に暮らしてたって話をしてからっすよね? 燐音くんの故郷は他人と一緒に暮らすのもあり得ない感じっすか!?」
    「いやまぁ婚前での同棲はあり得ねェけどよ……あ、それで事実婚扱いされてンのかこれ」
     未婚の若者が同じく未婚の若者と二人きりで暮らすというのは、この地でははしたない行為だと思われても仕方がない。都会と違い結婚相手の性別は定められていないため同性だというのは否定する意味を持たない。だが出会った頃のニキはまるで子供だったため、故郷の感覚が抜けていない当時の燐音としても特にそういった意識はしていなかったのだ。
    「今のおまえと、ってンじゃそうなるのか……」
     面倒なことになったと燐音は頭を掻いた。燐音としてはニキと婚姻関係になれるのは喜ばしく思いはしても困ることはない。だがニキとしては非常に不本意であり迷惑以外の何物でもないだろう。一方的に責任を取らせる騙し討ちのようなやり方で夫婦になれても虚しいだけだ。
    「……悪かったな。ちょっと話つけてくるわ」
     滞在中に婚儀を執り行うことは可能か――使用する食材や装飾品などを用意できるか――と確認に行ってしまった者たちの後を追うべく燐音が立ち上がろうとすると、その袖をくい、と引く手があった。
    「あー、えっと……故郷の人たちは、燐音くんの結婚相手がこんな都会の得体の知れない男でもいいんすかね?」
    「さァ? でもおまえ、やたらあいつらに気に入られてンだよな、何? 民たちを誑かして故郷を滅ぼす気?」
     燐音の目の前でニキに対して石を投げるような事はないにしても、無視をするだとか極力関わらないようにするなどの反応は燐音も覚悟していた。だが連れて来てみれば男女問わず目尻を下げ、好ましいものを見る目でニキと接していたのだ。都会に居ても割とその気はあったが、故郷へ来てからというもの実にそれが顕著であった。
    「ニキの人たらし! 浮気ものォ~!」
    「ちょちょちょ、今ここでそんなこと言わないで! 処刑とかされたらどうするんすか!!」
    「大事な大事な燐音さまを誑かして傷物にして結婚もせずに捨てた男だからなァ、きっと酷い拷問の末に……」
    「いつ傷物にしたって言うんすか!」
     軽口を誰かに聞かれやしないかと焦るニキを見て燐音はけらけらと笑う。近くに誰の気配もないことを確認しての会話ではあるが、都会の感覚に慣れて薄れてきていたこの地の前時代的な感覚が少しずつ浮いて見えてくる。
     ニキの思う『傷物』とはおそらく肉体関係などを指すのだろうが、ここでは『婚前の若者が共に暮らしていた』だけでも傷物扱いをされるのだ。しかも君主の息子ともなれば少しの傷も許されないだろう。先ほど席を立った故郷の者たちもそんな事実が明るみに出る前に正式に婚姻させ、正しい順序を踏ませようということなのだろう。
    「まぁとりあえず適当に言いくるめて来るからここでイイコで待ってな」
    「あ、いや、あの……」
    「なんだよ。一人にされたら心細くて泣いちゃうってかァ?」
    「そうじゃなくて、あの、するのは別に、いいんすけど……」
     もごもごと要領を得ないことを言い、服の裾を離さないニキに焦れてその頭に手刀でも叩き込もうかと思った瞬間、意を決したようにニキが顔を上げた。
    「だ、だから、してもいいって!」
    「あァ?」
     結婚。と、耳のいい燐音ですらともすれば聞き逃してしまいそうなほど小さな声が僅かに空気を震わせた。あまりのか細さに聞き間違いかと思えるくらいに。
    「ここは男同士でも結婚できるってことっすよね? そんで、ここの人たちは僕が結婚相手でもいいって思ってるんすよね?」
    「…………」
    「だから、」
     健康そうな肌の色に僅かに朱の色が浮かぶ。ニキが何を思ってそんなことを言い出したのか燐音にはわからないが、これがあまりニキにとって『正しくない』ことはなんとなくわかった。
    「……俺っちの意思は無視なわけ?」
    「え? あんた僕に結婚しようっていつも言ってるじゃないっすか」
    「おまえもいつも適当に流してんじゃん。何いきなり真に受けちゃってんンの?」
     燐音はニキの己の意思でやりたいことをやろうとするところは好きだったが、その反面深く考えずにその場に流されて選び取る癖があることもわかっていた。選んだあとのことについてきちんと責任を取ろうという覚悟はそれなりにあるようだが、そのせいで要らぬ苦労をするのがわかっていれば避けさせてやりたいとも思うのだ。
    「適当じゃなくて事実を言ってただけっしょ。都会では結婚はできないんで」
    「雰囲気でその気になってんンじゃねェっての。たしかにここで結婚したって都会じゃ何の効力もねェし? ニキきゅんにバツはついたりしねェけどよ」
    「何で離婚の話になってんすかね……」
     ムッとした顔のニキが燐音の方へ向いて座り直し、逃がさないとばかりに今度は強めに服の裾を掴む。
    「あんたみたいな面倒臭いひと、僕くらいしか付き合ってあげられないっしょ!? 生涯かけて幸せにするとかって言ってたの忘れちゃったんすか!? 黙って僕と結婚しろ!!」
     そう声を荒らげた瞬間、先ほどまで二人を迎えてくれていた年配の故郷の者が襖を開けて目を丸くしていた。これではまるで結婚を強要して故郷まで押し掛けてきたと思われても言い訳のしようもないとニキの顔色はさぁっと青くなる。
    「燐音さま……?」
    「あ、いや、こいつと結婚したくないわけじゃないんだけど……」
     結婚を拒む理由がニキの人間性にあると思われては困るため否定をしようとすると、年配の男はふっと目元を和らげて『君主』ではなく『年若い男』として燐音を見た。
    「結婚が決まると気分が落ち込むのは誰しもあることですからな」
     そう言って男はニキの方にも安心させるように笑いかけた。ニキの今後の人生を心配してこんなに安易に結婚を決めるべきではないと考えているというのに、まるで自分がマリッジブルーであるかのような扱いを受けて燐音は不服そうにしている。
    「燐音さまがニキさまを此処へ連れてきたということは、人生を共に生きる覚悟がすでにおありということでしょう。であれば、きちんと」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works