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    sinohara0

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    霜降のiPadを眺めつつwebアニメ14話に思いを馳せるなどしていました 諦聽の安否確認をする虚淮の話です

     天明珠の誓言録が達成された。何となく日課にしてしまっている妖精フォーラムの巡回で、そのスレッドが目に留まった。確か、館の創設者でもある老君が定め、達成者には褒美が与えられるものだったと記憶している。
     藍渓鎮の君閣の、それも確か最上階。そこに置かれている天明珠を持ち出すのが達成条件だったはずである。見返りは大きいとはいえ、怖いもの知らずもいたものだ。そう思いながら次のスレッドに進もうとして、虚淮はタブレットを操作する手を止めてしまった。
     今も変わりなければ、と虚淮は思いを巡らせる。確かあそこには諦聽がいるはずだ。かつての友人で、もし向こうがまだそう思っていてくれるのであれば、今も友人であるかもしれない男である。
     老君の従者である彼が、主の所有物が持ち出されるのを黙って見ているとは思えない。間違いなく交戦があり、敗北したか逃げ切られたかしたのだろう。
     後者であればともかく、前者であった時が問題だ。彼は妖精ではなく、神獣に分類される存在である。どちらも死とは随分遠い存在ではあるものの、神獣は妖精よりもいくらか肉体への依存性が強い。
    「――……」
     彼の安否を尋ねようと返信のための入力欄を選択してから、虚淮は思わず手を止めた。どう尋ねるのが適切か、判断に迷ってしまったからだ。主への挨拶をしてみたり、自分と諦聽との関係性を説明しようと試みてみたり。そういうものを書いては消し、書いては消しを繰り返す。
     諦聽が長く交流の途絶えたかつての友人でしかなければここまで悩まなかっただろう。彼が察していたかどうかはともかくとして、虚淮達は彼に一度も相談をせずにあの日に至った。彼が老君の従者である時点で相談などできるはずはないのだが、結果として残ったのは自分が彼の主人が立ち上げた組織に歯向かった事実だけである。
     主の意向に沿って動いているはずの組織と対立したかつての友人に裏切られたと感じていても、虚淮は諦聽を非難できない。自分は一度ならず二度までも明確に館と対立する意志を示したのだ。恨まれていたとして、どこに不思議があるだろう。
     一方を選んで、他方の縁を切ったのは虚淮の方だ。彼がもう終わったものとだけ考えてくれているなら、それだけで御の字である。虚淮だって、そういう覚悟をしてあの日を迎えたのだ。ならば、そもそも問いかけることすら間違いなのではないだろうか。
     そうつらつらと思いながらも、指先は正しい問いかけを探してしまう。終わってしまっているのであれば、今更虚淮がアクションを起こしたとしても、何か変わることもないのかもしれない。そう自分勝手な結論を導き出したのはもはや投げやりにも等しい、説明も何もない無遠慮な呼びかけを書き上げたときだった。
     自らの選択を再検討する前に送信ボタンを押してしまい、虚淮はタブレットを机に置いた。スリープモードにするのを忘れたが、放っておけば勝手に消灯するのでそのままにすることにする。
     ひとまず洛竹が持ち込んでくれた枝に水と養分を与えてやり、埃が溜まっていないか確認する。ついでに支えの部分を布で拭ってやっている時にタブレットが音を立てたので、ぴたりと手が止まってしまう。布を畳んで枝の脇に置いてから机のタブレットを覗くと、定期面談の知らせが入っていただけだった。
     肩透かしを食らった気持ちになりながらタブレットを机に戻そうとして、それから諦めて手の内に戻す。この部屋でできることなどほとんどないのだから、気を紛らわす方法など皆無に等しい。
     洛竹辺りに連絡を取って構ってもらえれば良い気もしたが、多分仕事の最中だろう。天虎ならば捕まるだろうが、連絡手段を持ち歩く性分の子ではないため一度ひとを経由しなければならない。それに、そもそも自分の対人関係の問題のために二人を使うのも気が引けた。
     観念して腰を上げてタブレットを抱えたまま寝台に寝転がる。消灯したままの照明を何とはなしに視界に納めてから、虚淮は瞼を落として自身の呼吸を数えることにした。
     再び端末が音を立てたのは数えた回数があやふやになって二回程カウントを一に戻して、三十四回目に至ったときだった。腹の上に転がしていたタブレットを顔の前に持ってきて、虚淮は畳まれている返信欄を開いた。そこには虚淮が送り付けた気楽な問いかけを上回る砕け切った短い返答がある。
     諦聽は元気であること。この問いかけを本人に伝えておくこと。送り主である老君は虚淮の立場など全く気にしないような返信を寄越してきた。件の事件は館にとっても相応に大きな出来事であったはずだが、虚淮がその騒動に関わっていると認識していないのかもしれない。現在隠居の身分である彼が館の運営をどれだけ知っているかも分からないし、トップの存在が全ての情報を把握しきっているのであれば、運営体制として問題があるとも言える。
     兎にも角にも、彼は無事でいるらしい。ようやく気がついた足先にまで走っている緊張を緩めて、虚淮は深々と息を吐く。先程まで飽きるほどに数えていたはずなのに、久々に満足に呼吸ができたような気がした。自分から関係を断ったというのに、それでも自分は彼を友人だと思い続けているらしい。
     もう長らく彼の顔を見ていないし声も聞いていない。記憶に残っている表情も声の調子も、もうそれが正しいものなのかも正直な所自信がなかった。それでも彼の安否を尋ねずにはいられないほどに、虚淮は彼を大切に思っている。彼の立場を悪くしてもおかしくない行動を取り続けているというのに、それでも。
     諦聽が健在である。それが分かっただけで十分だと、虚淮は再びタブレットが音を立てるまでそっと瞼を落としていた。
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