「お、荀攸さーん」
「李典くん。お疲れ様です」
「お疲れです。よかったですね、プロジェクト成功して」
「えぇ。本当に……李典くんと楽進くんのおかげです。ありがとうございます」
「当たり前のことをしただけです、俺は」
口調こそ淡々としているが、荀攸の言葉が素直に嬉しい。思わずニヤけそうになる。
けれど、そのあとに続いた一言に、思わず眉をひそめそうになった。
「先ほど、楽進くんと三人で打ち上げの食事をしようと話しまして……李典くん、どうでしょうか?」
「それは…いいですね」
(行動早いな……楽進。あーくそ、出遅れた)
「食事なんですが、楽進くんのリクエストで……俺が作ることになりましたが、それでもよろしいですか?」
「えっ、荀攸さんの手料理!?全然アリです!」
「良かった……とはいえ、何を作ろうか悩んでしまって」
そう言いながら、荀攸は腕を組み、少し視線を落とした。
眉間にしわを寄せ、顎に手を当てて、ほんのわずかに背が丸くなる。
それは李典にとって、見慣れた姿だった。
「……荀攸さんって、悩んでるとき猫背になりますよね」
「え?」
「自覚ないんですか?」
「はい、気付いてませんでした」
「姿勢としては良くないですよね……でも、荀攸さんだとなんか、可愛いです」
「か、かわ……からかわないでください、李典くん」
「からかってないですよ。悩む時って、顎に手を当てて、小さく『うーん』って言いながら、段々猫背になっていって、で、いい案が浮かぶと、ピンって背筋が戻るんですよね」
「……李典くんは、よく俺を見てますね」
「え、あ……」
(やば、喋りすぎた……気づかれたか……?)
「その観察眼が、李典くんの勘の良さの元になっていると俺は思っています。今回のプロジェクトも、李典くんのフォローに助けられました。本当に、ありがとうございます」
「いえいえ…」
(バレずに済んだ……いや、これ……どうなんだ)
荀攸は変わらない穏やかな表情で微笑んでいるだけ。
でも、李典の心の奥では、さっきからざわつきが止まらなかった。
ふと、荀攸が再び口を開いた。
「では、日程が決まったら連絡します」
「わかりました、楽しみにしてます……でも」
荀攸が小さく首を傾げる。
その仕草を一瞬だけ見つめてから、李典は穏やかな声で続けた。
「今回の打ち上げは、楽進に譲ったってことで……。次は、俺にくださいね、荀攸さん」
「……?」
「今度は、俺が先に誘いますんで」
「え?」
荀攸は小さく目を瞬かせ、何かを言いかけてた。
けれど、李典はそれを聞くことなく、少しだけ笑って背を向けた。
(言葉の意味は、今はまだ気づかれなくてもいい。でも次は、ちゃんと伝える……言葉でも、行動でも)
七夕の短冊には、あの時─
「荀攸さんと、もっとお近づきに…」
そんな願い、俺には書けなかった。
……けれど、願うだけじゃ足りないって、今日ようやく気づいた。
次こそ俺の想いを、ちゃんと届かせる。
願いじゃなくて、行動で。
あの人に、確かに届くように…。
終